人力でタイムマシンを押すように(吉村おもち)

クリッピングから
讀賣新聞2023年7月31日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  人力でタイムマシンを押すように
  二人がかりで資料をさがす

       八王子市 吉村おもち


    【評】過去の膨大な資料を一つ一つ調べながら、
       探しものをしているのだろう。
       めまいのしそうな徒労感と、
       少しずつでも目的に近づいていると信じたい気持ち。
       それらが、ユーモラスで意表をつく比喩で伝わってくる。


  物置の屋根に上がった六歳を
  かつての我であるから叱る

       京都市 袴田朱夏


    【評】かつての自分に重ねて、
       懐かしんだり大目に見たりするのかと思いきや。
       気持ちがわかるからこその叱責(しっせき)に、
       はっとさせられる。


  感染者戦死者の数伏せられて
  まるで平和のようなはつ夏

      上尾市 関根裕治


    【評】数字の説得力は大きい。
       「まるで…のような」を、比喩というより
       批判、皮肉として効かせているところがポイントだ。


今週の、もう1首。
不思議な味わいの読後感が好きです。


  時間とはここじゃでこぼこ畳まれて
  また湧き上がるエスカレーター

        高島市 宮園佳代美