さよならのさよの部分は風に似て(宮園佳代美)

クリッピングから
讀賣新聞2023年3月6日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  さよならのさよの部分は風に似て
  手を振るように心を揺らす

       高島市 宮園佳代美


    【評】上の句を読んだとたん、
       さよさよさよと心に風が吹いた。
       なんて素敵(すてき)な発見だろう。
       言葉の響きと、別れのせつなさが、
       一首のなかで溶けあっている。


  小雨でも運動会があるように
  泣きたい午後も接客をする

     八王子市 吉村おもち


    【評】「小雨」と「泣きたい」、
       「運動会」と「接客」が連動した比喩が面白い。
       きっちり重なるのではなく、
       気分的には、運動会ほど嬉(うれ)しくないのがミソ。


  たっぷりと音の詰まった釣鐘を
  僧侶がつけばどっとあふれる

         宮崎市 長友聖次


    【評】目に見えない音を、言葉で表現するのは難しい。
       釣鐘の形状をうまく使って、
       荘厳な音をうまく可視化している。


もう一首、共感した歌を。


  冷蔵庫にうなぎの二切れあることに
  わが来し方を可とする夕べ

          仙台市 江川森歩