ふるさとの言葉かさねてわが母を(武井恵子)

クリッピングから
讀賣新聞2023年7月24日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  月面をはじめて歩く人となり
  あなたの部屋のリビングにいる

      ふじみ野市 雨雨雨汰


    【評】初めて部屋に招き入れられたときの、
       緊張感からくるぎこちなさ。
       ふわふわした気持ち。
       不自然で大仰な動きになってしまう自分。
       すべてをとらえた上の句が秀逸だ。


  ふるさとの言葉かさねてわが母を
  ヘルパーさんは抱き起こしたり

         国立市 武井恵子


    【評】ヘルパーさんがお国訛(なま)りを持つ人なのか、
       あるいは母の故郷の言葉をつかってくれる人なのか。
       いずれにせよ、方言が思いやりと優しさを伝えてくれる
       素敵(すてき)な場面だ。


  不器用なわたしと違う 生えてすぐ
  支柱を上手に頼る朝顔

          越谷市 あきやま


    【評】ためらわず蔓(つる)を巻き付ける朝顔
       うらやましい気持ちが「上手に」の一言ににじむ。


今週はもう1首。
カキーン、と金属音が聞こえてきました。


  グラウンドから鳴り響く金属音のそのあざやかさ 
  夏がはじまる

              さいたま市 雨谷詩穂