折りぐせのついた楽譜をしんしん燃やす(永汐 れい)

クリッピングから
讀賣新聞2023年4月3日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  信じないことはたやすい 
  折りぐせのついた楽譜をしんしん燃やす

            花巻市 永汐 れい


    【評】つまり、信じることは、
       本当に難しいという思いをかみしめる一首。
       折りぐせのつくほど時間を共にした楽譜でさえ、
       燃やせばなくなってしまうのだ。


  近づいただけで笑ってくれるから
  「ばあ」を言えずにいないいない母

          姫路市 竹林 知可子


    【評】「ばあ」ではなく「母」という言葉遊びで軽やかに歌っているが、
       認知症を患っておられるのかと想像した。
       「いない」という語が、また別の重みを感じさせる。


  卵から孵ったように呼吸する
  マスク外した三月のヨガ

       平塚市 小林真希子


    【評】久しぶりにマスクを外した開放感が、
       上の句の比喩で伝わってくる。
       ヨガは呼吸を大事にするから、なおさらだろう。


もう一首、気になった歌。


   吸血鬼の末裔だという安原の
   家族写真が全員猫背

        西東京市 渡部 薫