乗っていたのは春かもしれず(小林真希子)

クリッピングから
讀賣新聞2023年3月20日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  かすかなる花の香のこるエレベーター
  乗っていたのは春かもしれず

        平塚市 小林真希子


    【評】誰かの残り香を、エレベーターで感じることはよくあるが、
       その「あるある」を飛躍させた下の句が素敵(すてき)。


  消しゴムを使いきりたることなくて
  恋の終わりはいつも曖昧

         大和郡山市 大津穂波


    【評】確かに、消しゴムって、そうだ。
       作中人物の恋は、そのように終わりを見届けることなく
       フェードアウトする。
       思い出を消しきれないニュアンスも感じられて、
       味わい深い重ね合わせだ。


  我が布団に潜り込み来し猫の鼻
  ビー玉のごと冷たかりけり

         狭山市 奥薗道昭


    【評】潜り込まれた布団の温かさと、猫の冷たさの対比。
       ピンポイントで表現されたビー玉の比喩に、説得力がある。