こころに秋が染み込んでくる(富見井 高志)

クリッピングから
讀賣新聞2022年11月7日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週の好きな歌4首、抜き書きします。


  落し蓋されているよう曇り日は
  こころに秋が染み込んでくる 

       東京都 富見井 高志


    【評】上の句、どんよりとした圧迫感を覚えるが、
       「落(おと)し蓋(ぶた)」の比喩が
       下の句で鮮やかに生かされる。
       そうだ、落し蓋はじっくり
       味を染み込ませるためのものだった。


  秋色の干し物増えて少しずつ
  紅葉してゆくようなベランダ 

       平塚市 小林 真希子


    【評】秋になると、黄色や茶色、
       ボルドーカラーなどを着たくなる。
       同様の気温でも、春先ではそうはならないから不思議だ。
       秋色の服を紅葉に見立てた比喩が、
       とてもナチュラル。


  娘来て煮物もらひて帰りゆく
  息子二人の母熊として

       岐阜市 後藤 進


  思い出し笑いのように「コソッ」と音
  さっき投げたるゴミ箱の紙 

       大和郡山市 四方 護