ババなんて持っていないの顔をする(富見井 高志)

クリッピングから
讀賣新聞2024年3月4日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  ババなんて持っていないの顔をする
  近ごろどうだと娘に問えば

        東京都 富見井高志


    【評】父は、娘の表情に
       何かしら心に隠し事がある気配を感じたのだろう。
       ババ抜きの比喩が秀逸だ。


  オリオンが空を横断する間
  きみの寝顔を見つめたかった

      大和郡山市 大津穂波


    【評】上の句は、つまり「一晩じゅう」ということなのだが、
       なんというロマンティックな表現だろう。
       夜空の星を時計代わりにしてしまうスケール感が、
       愛の大きさをも思わせる。


  口に出すほどではないけど嬉しくて
  こんな時こそシッポがほしい

       守口市 小杉なんぎん


    【評】言葉にするのは大げさだし、
       ガッツポーズとかも恥ずかしいし。
       なるほど、シッポとは
       自然に喜びを表現できるすぐれものなのだ。


今週はもう2首。


    まつげにも積もろうとするその雪と
    同じ思いで愛していたよ

          高島市 宮園佳代美


    上の句も下の句もまた瑞々し
    半分売りのすずしろの白

          足利市 坂庭悦子



(大根(蘿蔔 <すずしろ>)「季節の花300」より引用)