有明のダイヤモンドの街灯を(阿坂れい)

クリッピングから
讀賣新聞2023年8月7日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  教科書に腕立て伏せをさせながら
  詩の風にきみは眠りつづける

        川崎市 からすまぁ


    【評】詩のページを開いたまま、
       顔か胸の上に山型に教科書を伏せているのだろう。
       腕立て伏せの比喩が素晴らしい。
       寝息とともに上下する感じも伝わってくる。


  有明のダイヤモンドの街灯を
  ふたり見おろす夏はあけぼの

       可児市 阿坂れい


    【評】有明という古めかしい語を
       枕詞(まくらことば)のように
       ダイヤモンドへ続けるところが面白い。
       二人で共有した夜から朝への時間も、輝いている。
       枕草子に対抗するような結句が粋だ。


  彼の吹くトランペットの上達は
  公園にいるみんなの願い

        東京都 富見井高志


    【評】彼の人柄もあるかもしれないが、
       騒音扱いされていないところがいい。
       コミュニティの温かさに、読者としても加わりたくなる。


あと2首、書き留めます。


  まな板の上でオクラを転がして
  夏の産毛を取り払ひたり

       千葉市 小金森まき


  目の覚めてわれがわれではない時の
  小鳥の声の透きとおる朝

        仙台市 小野寺寿子