手のひらにクリーム広げゆくように(大津穂波)

クリッピングから
讀賣新聞2023年5月22日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  さざなみのやうにめくれば
  この本のわれはただひとりの航海者

         千葉市 小金森まき


    【評】本のページを波にたとえるとき、
       読書とは、その波の広がる海をゆく航海となる。
       「この」「ただひとりの」という二つの限定が、
       唯一無二の体験としての魅力を伝えてくれる。


  手のひらにクリーム広げゆくように
  会いたさをゆっくりと馴染ます

        大和郡山市 大津穂波


    【評】会いたくて会いたくて前のめりになってしまう心。
       その性急さを鎮めなくてはと心を落ち着かせる。
       上の句の比喩が斬新だ。
       読者の心にも、じんわり馴染(なじ)んでくる。


  閉店を告げる貼り紙よく見れば
  小さな文字の寄せ書きがある

          可児市 阿坂れい


    【評】閉店を惜しむ人たちが、
       感謝や残念さや労(ねぎら)いの言葉を書いたのだろう。
       「寄せ書き」という表現が、客の一体感を伝えてくれる。