「いかがですか」と魔女の寄り来ぬ(鍵山奈美江)

クリッピングから
讀賣新聞2021年10月18日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週も好きな歌3首、抜き書きします。


  まだ伸びるぐんぐん伸びる豆苗が
  北斎の波のかたちに伸びる

        京都市 袴田朱夏


    【評】三回の「伸びる」が、
       豆苗(とうみょう)の生命力を
       リズミカルに伝えて勢いがある。
       「北斎の波」は「富嶽三十六景神奈川沖浪裏」の波だろう。
       くるんと先のまるまった豆苗を、
       意表を突く比喩でとらえた。


  向かい合う班の形の給食が
  都市伝説になる低学年

       柏市 のんぬもんぬめぐ


    【評】入学した時から、
       席を離しての黙食を強いられてきた子どもたち。
       都市伝説という表現が、大げさでなく胸に響く。


  ハロウィンの魔女の帽子を見ておれば
  「いかがですか」と魔女の寄り来ぬ

          枚方市 鍵山奈美江


    【評】商品をアピールするための扮装(ふんそう)なのだろうが、
       ぎょっとした感じがよく出ている。
       魔女と断定したところがポイントだ。


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いつも思うことですが、
万智さんの評を読んでから、それぞれの歌を読み直すと、
俄然世界が広がり、深まります。


優れた歌人は他人の歌の読解能力、
さらに読み解いたことを言葉で表現して
読者に伝える能力も高いことが分かります。