この本が2017年に出版されてほどなく、
図書館で予約して読んだ記憶がある。
今回およそ6年後に再読したら味わいが深くなっていた。
池内紀(おさむ)『すごいトシヨリBOOKートシをとると楽しみがふえる』
(毎日新聞出版、2017)。
本文から引用する。
よく考えてみれば、老いの問題については、
老いていく自分が一番詳しい。
素材が自分でしょう、教材が目の前にある。
日々日々、新たな教材ですから、
自分の老いを通して老い全体の問題を、
当人が学べる場というのは、他にありません。
誰もが自分のスペシャリストになれるのです。
(略)
大雑把(おおざっぱ)に言って、
七十を超えれば、老いが切実な問題になってくる。
七十をメドに生来の命が、
老化によって衰弱していく命に変わるというのが、僕の実感です。
「小さな復活劇」は現実を直視するところから始まります。
自分の老いに関して、自分以上のスペシャリストはいないとしても、
自分のスペシャリストになるには、
自分でいろいろ工夫を凝らして、
自分なりのルールなりシステムを作り上げる必要があります。
大げさに言えば、老いに「抗(あらが)う」のではなく、
老いに対して誠実に付き合うこと。
老いの中で起こる面白くないことも、
目をそむけたり、すり替えたりしない。
生き方も健康状態もみんなちがうわけで、
AさんのシステムはBさんには通用せず、
個人個人がスペシャリストで、
個人個人が自分特有のやり方、方法を持つことになる。
その時に初めて楽しみが出てくるというのが、僕の考え方です。
老いの面白さは、
反語だと思っていると反語じゃなくなったり、
哲学の命題が横たわっていたり、
思ってもいなかった自分を発見することです。
(pp.19-21)
編集・聞き役/永上敬(毎日新聞出版)
聞き役/佐藤恵(「サンデー毎日」編集部)
池内さんは本書出版の翌2018年逝去。
享年78。
(池内の上記最晩年著作をめぐる騒動に関する舛添要一論考(2019.8.9)を「文春オンライン」より引用)