われをわが家のはやぶさとする(武藤義哉)

クリッピングから
讀賣新聞2021年2月1日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週も好きな歌3首、抜き書きしてみます。
万智さんの【評】を読むと、勉強になるなぁ。


  靴底に砂つぶ付けて帰宅せし
  われをわが家のはやぶさとする

         東京都 武藤義哉


     【評】はやぶさ2が地球に届けた砂が、大ニュースになった。
        砂つぶくらいなら、我が靴底にも……というわけだ。
        やや大げさな下の句に、にじむユーモア。
        こういう感覚が持てれば、日常も楽しく豊かになる。


時事の話題を自分の日々の暮らしに関係づける技を見ました。
つないでいるのは、ユーモアのセンスなんですね。


  ラーメン屋の屋号にされた山頭火
  しぐれる街の夜にかがやく

           仙台市 岩間啓二


     【評】満腹とは縁のなさそうな山頭火が、
        ラーメン屋の屋号になっている皮肉。
        代表句にある「しぐれ」を踏まえたところが粋だ。


万智さんが言及している山頭火の代表句はこれかな。


  うしろすがたのしぐれてゆくか


山頭火ふるさと館サイトによれば、
昭和6年12月に詠んでいます。
しぐれとは初冬に降る通り雨なんですね。
初冬の雨の夜、山頭火の真っ赤な看板がかがやく光景を想像すると、
確かにあったかいラーメンが食べたくなってくるな。


  店先にポインセチアの並ぶのを
  詠むため赤い言葉をさがす

        平塚市 小林真希子


小林さんの作歌法をひとつ教わりました。
ポインセチアを詠むのに「赤い言葉」を探すのか。
歌を詠む習慣を持つ人は、逆発想ができるようになるんですね。


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山頭火句集 (ちくま文庫)

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