海の家閉ざす店主の心地して(矢島佳奈)

クリッピングから
讀賣新聞2019年10月7日朝刊
読売歌壇 俵万智


  最優秀句(3点)より


  海の家閉ざす店主の心地して赤いペディキュア落とす初秋
  船橋市 矢島佳奈


  【評】夏の終わりの寂しさが、上の句の比喩と、
  下の句の具体的な行為によって、的確に伝わってくる。
  赤い爪が元の色に戻るとき、夏という夢から醒(さ)める感じだ。


上の句の比喩から下の句の行為への距離感、
飛躍と着地が気持ちよかった。
こんなふうにいま頃の季節を短歌にできるんだなぁ、と勉強になった。
男の僕には思いもよらない、言葉のアクロバット飛行でした。
万智さんの「夏という夢から醒める感じ」の評が的確ですね。


  優秀句(7点)より


  「亡き夫に『ただ今』と鍵の穴回す」と詠みし亡母の心偲ぶ秋
  交野市 遠藤昭


定型句でないため黙読するときリズムがよくないな、とまず感じた。
詠み手の奥さまがこの秋亡くなったのかと気づくと、
寂しさの余韻が伝わってきた。
歌の中に歌を取り込む必然性もあった。


  三十才の息子の人間関係が気になる母という生き物は
  福岡市 土居健悟


おや、この詠み手の名前に見覚えがあるぞと記憶をたぐったら、
以前デジタルノートで取り上げた方だった。
そのとき採用になった短歌と合わせて読むと、
現在30歳の詠み手と母親の関係が浮かんでくる。
僕は前の句が好きです。


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(毎週月曜掲載の俵万智選読売歌壇と、この新書二冊が僕の短歌の教科書)