ひらがなの柔軟体操する声聞こゆ(富見井高志)

クリッピングから
朝日新聞2023年10月9日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  まず土地に杭を打ち込むようにして
  二人暮らしにたてる歯ブラシ

        越谷市 あきやま


    【評】ともに暮らすとは、
       歯を磨くというような日常を共有すること。
       週末の逢瀬(おうせ)に花を飾るのとは違う。
       基礎工事の杭(くい)としての歯ブラシ。
       上の句の比喩がみごとだ。


  目的地などない夜のおさんぽの
  一緒に歩くという目的

      大和郡山市 本田 岳


    【評】散歩とは、そもそもそういう側面を持つものではあるが、
       景色さえいらない「夜のおさんぽ」の幸福感が伝わってくる。


  図書館の児童書コーナー
  ひらがなの柔軟体操する声聞こゆ

        東京都 富見井高志


    【評】子どもたちがいない間は、
       文字がおしゃべりしているという楽しい空想。
       「柔軟体操」が、ひらがなの柔らかさとマッチしている。


今週のもう1首。


  茗荷の葉さらさら鳴らし
  夕立の気配を風が運び来るなり

         狭山市 奥薗道昭