Tora's Barで過ごす週末



今週末、副会長は用事があるので、
土曜日の晩、僕は虎の湯&Tora's Barで過ごします。


Tora's Barはバーテンダーがいません。
支配人と接客担当ディレクターがいます。
別府みょうばん温泉の虎の湯につかってくつろいで
さて、それから出かけるバーでございます。
自分で好きな酒を作って
好きなだけDVDを観たり、本を読んだりすることができます。
週末だけときおり営業する幻のバーなのです。




(支配人:コトラン)



(接客担当ディレクター:黒兵衛。
 気が向くとお客のひざに乗るサービスあり。別料金)


湯上がりに僕はトロ角ハイボールを注文して、
ユリシーズの瞳』をDVDで観ることにします。
おつまみはH精肉店謹製
ハムチーズフライ粒からし添え2枚。240円。
小腹が空けばベーコンとキャベツをたっぷり使った
目玉焼きのせ焼きそば。値段不明。


今宵選んだのはテオ・アンゲロプロス監督の作品で
僕にとっては『霧の中の風景』に続く2本目です。




幻の映画リール3巻を追って
バルカン半島を主人公がさまよい続けます。
時間軸も前後するので観客は幻惑されます。
霧の中の風景』でも『ユリシーズの瞳』でも
主人公は失われたもの(前者では実の父親、後者では3巻のリール)を
求めて彷徨します。
どちらの作品でも霧のシーンが効果的に使われています。


ユリシーズの瞳』の最後の舞台はサラエボです。
かつて冬期オリンピックを開催した都市として記憶され、
民族紛争によって住民が殺戮され破壊し尽くされた都市です。
主人公以外のすべての人間が
たいした理由もなく霧の中であっさり殺されてしまいます。
人類が人類に対してどうしてこれだけ無神経になれたり
憎しみを持てるのか、本当にやりきれない気持ちになります。


物語はすべてアンゲロプロス監督の
詩的な視覚言語で語られていきます。
文字で読むだけでは想像しきれない
バルカンの歴史とそこで生きる人間たちのことが
僕の脳と心を揺さぶり続けます。


169分。
週末の時間にふさわしい、
またも見ごたえのある作品でした。


Tora's Barは居心地よく
映画を見終わるとあたりには支配人も接客担当ディレクターも
見当たりません。
僕はひとり静かにトロ角ハイボールのグラスを傾けます。
カレンダーはとっくに日曜日になってます。