生ハーブ湯とビニール傘



会社帰りの東京銭湯お遍路
第20湯は幡ヶ谷の「仙石湯」。
ノートにスタンプを押してもらう際に
番台のご主人と一言二言、言葉を交わす。




脱衣所にはソファが用意されていて、
文芸春秋」「芸術新潮」「東京人」などが
自由に閲覧できる。
壁には洒落た版画がかかっている。
署名が読めなかったが、誰の作品かな?



「油・水等資源には限りがあります。」
に始まる店主お願いの文章は
これまでどの銭湯でも出会ったことのない内容だった。
市井には人物がいる。



「仙石湯」の名物は週替わりの生ハーブ湯。
今宵はペパーミント。
たっぷり葉を使っているから実に香りがいい。
女性たちはこうした湯の存在を知れば、
内風呂があっても時には銭湯に来てみたいと思うのではないか。



湯上がりには春雷か、雨が降り始めた。
傘を持っていなかったから
はて、どうしたもんだろうと考えていたら、
ご主人、「傘を貸しましょう」と言ってくれる。
「ありがたいが、次にいつここに来られるかわからないから」
と答えると、奥方に声をかけ不要になったビニール傘をくださる。


450円の入浴料を支払って、
ビニール傘までいただいて帰るんじゃ
どうしたって先方の商売にはならないが、
「小さな旅先」の、こうした親切はことさらうれしい。



  (小雨の中、夜桜を楽しむ人たち)


会社を出るときは
どこの街の、どこの湯につかるか、
まるで決めていないから、
その夜、どこでどんな時間を過ごすかは、偶然と気まぐれで決まる。


「仙石湯」にたどり着くまでの商店街には、
なんだか気になる飲食店がいくつかあった。
お腹もすいてきたから、
どこぞで一二時間気晴らしをしていこう。
幸い、ビニール傘をいただいたから、濡れる心配もない。


さて。