藤木TDC『場末の酒場、ひとり飲み』(2010)


藤木TDC『場末の酒場、ひとり飲み』(2010)を読む。
本屋でパラパラと立ち読みして買った本だ。
アマゾンではこんなふうに本を買ったりはしない。
リアル書店ならではの愉しさである。


場末の酒場、ひとり飲み (ちくま新書)

場末の酒場、ひとり飲み (ちくま新書)


拾いものだった、などと言っては著者に失礼だろう。
戦後からいまに続く東京の歴史の断面を、
場末の酒場の視点で切り取った着想が秀逸だった。
本書はいわゆる酒場ガイドブックとはまるで違う。



   しかし場末酒場の記憶は無力感へ変わることがない。
   そこにいる人々が常に孤独や貧しさや愚かさを共有し、
   それらを克服して逞しく、享楽的に生きているからだ。
   それを分け与えてもらうことが、
   場末へと向かう心境の核心的部分ではなかろうか。
   場末の酒場には俗流の人生の真実と奥義がある。
   それを求めて、酒徒は今夜も暗い横丁をとぼとぼと歩くのだ。

                   (本書p.204より引用)



僕も横丁や小路になぜか惹かれる。
表通りから二三本入ったところに忽然と現れる銭湯や居酒屋で
しばしの時間を過ごし、旅した気分を味わう夜もある。
自分ではブームに乗っている気持ちはまったくないが、
藤木の本を読んでいると、そこに同時代感があることに気づく。
どこぞの場末の酒場で、
佐藤泰志海炭市叙景』の登場人物にすれちがうような
そんな錯覚にふと陥る。


海炭市叙景 (小学館文庫)

海炭市叙景 (小学館文庫)


ちくま新書の企画・編集には力がある。
本書腰巻のコピー「踏み込めば、先は極楽」にもニヤリとした。
水で薄めたような新書ばかり各社から毎月量産される中で、
着実に読ませる一冊だ。
一読者として気骨ある出版をこれからも期待したい。



(文中敬称略)