藤木TDC『場末の酒場、ひとり飲み』(2010)を読む。
本屋でパラパラと立ち読みして買った本だ。
アマゾンではこんなふうに本を買ったりはしない。
リアル書店ならではの愉しさである。
- 作者: 藤木TDC
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2010/10/07
- メディア: 新書
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拾いものだった、などと言っては著者に失礼だろう。
戦後からいまに続く東京の歴史の断面を、
場末の酒場の視点で切り取った着想が秀逸だった。
本書はいわゆる酒場ガイドブックとはまるで違う。
しかし場末酒場の記憶は無力感へ変わることがない。
そこにいる人々が常に孤独や貧しさや愚かさを共有し、
それらを克服して逞しく、享楽的に生きているからだ。
それを分け与えてもらうことが、
場末へと向かう心境の核心的部分ではなかろうか。
場末の酒場には俗流の人生の真実と奥義がある。
それを求めて、酒徒は今夜も暗い横丁をとぼとぼと歩くのだ。
(本書p.204より引用)
僕も横丁や小路になぜか惹かれる。
表通りから二三本入ったところに忽然と現れる銭湯や居酒屋で
しばしの時間を過ごし、旅した気分を味わう夜もある。
自分ではブームに乗っている気持ちはまったくないが、
藤木の本を読んでいると、そこに同時代感があることに気づく。
どこぞの場末の酒場で、
佐藤泰志『海炭市叙景』の登場人物にすれちがうような
そんな錯覚にふと陥る。
- 作者: 佐藤泰志
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/10/06
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ちくま新書の企画・編集には力がある。
本書腰巻のコピー「踏み込めば、先は極楽」にもニヤリとした。
水で薄めたような新書ばかり各社から毎月量産される中で、
着実に読ませる一冊だ。
一読者として気骨ある出版をこれからも期待したい。
(文中敬称略)