辞書、辞典は読むものである。
この秋出版されたばかりの
中村明『日本語 語感の辞典』を読む。
- 作者: 中村明
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/11/26
- メディア: 単行本
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この辞典が生まれるきっかけとなったのは
中村が司会を務めた大岡信、谷川俊太郎、辻邦生の
1980年の座談会であった。
この会で「語感」に着目した中村は以来30年研究を続け
10,000語を収める『語感の辞典』を単著として出版した。
偉業である。
「医者」と「医師」。
「勝手」と「台所」と「キッチン」。
「ごはん」と「めし」と「ライス」。
どの言葉も意味は同じようでいて、語感は違う。
その語感に挑んだ日本初の辞典である。
- 作者: 中村明
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1994/08
- メディア: 新書
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中村は自著『センスある日本語表現のために 語感とは何か』(1994)
に触れた文章に続けて、こう書いている。
その数百語の言及を足がかりとし、
年古りていささか感度の鈍ったアンテナに
それ以後ひっかかった約一万語を対象として
本邦初の『語感の辞典』を編むこのたびの企画は、
まさにドン・キホーテの第二弾というべきだろう。
が、国語辞典が慎重である限り、
こういう大胆で子供じみた叩き台でも誰かが示さなければ、
<語感>の研究は一向に進展しない。
(「あとがき」p.1179 より引用)
中村による語感の解説に加えて、
夏目漱石、森鴎外から、村上春樹、川上弘美、小川洋子まで
近現代の日本文学作品の用例を多数引用。
小津の言葉に関する著作を持つ中村が
小津安二郎、野田高悟のシナリオから実例を引用しているのも嬉しい。
- 作者: 中村明
- 出版社/メーカー: 明治書院
- 発売日: 2007/04
- メディア: 単行本
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さらに、中村がこれまで直接取材してきた
井伏鱒二、吉行淳之介ら作家の言語意識、表現感覚に関する生の声を
それぞれ該当する言葉の欄に収録している。
まさに至れり尽くせりのサービス精神であり、
この辞典が中村の集大成の仕事であることが分かるのだ。
パラパラ気ままに頁を繰っているうちに
原典の小説やシナリオの語感を味わいたくなってくる。
こうした企画を実現できたのは日本の出版文化の底力である。
中村とともにチームを組んだ
岩波書店・田中正明、加瀬ゆかり、鈴木康之らの
チームとしての達成に拍手を贈りたい。
素晴らしい仕事である。
文章を書くことを仕事にしている人、
日本語を学ぶ学生や社会人のみなさんにお薦めできる一冊。
著者の中村明は国立国語研究所室長などを歴任し、
現在早稲田大学名誉教授、山梨英和大学教授。
(文中敬称略)