宮崎市定『雍正帝ー中国の独裁君主』を読む。
本文はもちろんのことながら
併載論文「雍正硃批諭旨(ようせいしゅひゆし)解題
ーその史料的価値」が面白い。
解説を書いている宮崎の高弟・礪波護の発案で併載が実現した。
康煕帝、乾隆帝にはさまれ
中国史において目立たぬ存在であった雍正帝に宮崎は光を当てる。
- 作者: 宮崎市定
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1996/05/18
- メディア: 文庫
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雍正帝が発明した「奏摺(そうしょう)」という
コミュニケーションの仕組みに着目したい。
地方の文官武官223名に直属上司を通さず、
直接天子に報告を上げさせる仕組みだ。
彼らは本来であれば天子に直接上奏する立場にない。
だからこそ雍正帝は地方の事実を自分の耳目でつかみたかった。
(静岡の魚屋「魚とし」さんがお年賀に送ってくれた
小鰭酢じめ、あん肝で一杯やりながら本を読む)
鍵のついた小箱4つをひとりひとりに持たせ、
合い鍵は雍正帝自らが持つ。
のべ数百の小箱が常に地方と中央を行ったり来たりして
公式文書とは異なる親展状として天子に届けられる。
驚くべきはそのひとつひとつの報告に
天子が朱字を入れ、部下それぞれに返信したことだ。
「雍正硃批諭旨」はそのやりとりをまとめた書である。
その読み解きに宮崎は注力したのだ。
官僚をいかに使いこなすかは
清王朝、雍正帝だけの問題ではない。
現代における世界各国、日本のどの政権も同じ問題を抱えている。
コミュニケーション改革を統治改革に結びつけた雍正帝の創造性。
そこに着眼した宮崎の書は
50年以上前の著作とは思えない鮮度を今も持つ。
(文中敬称略)