宮崎市定『雍正帝』(1950,1957初出/1996文庫版)


宮崎市定雍正帝ー中国の独裁君主』を読む。
本文はもちろんのことながら 
併載論文「雍正硃批諭旨(ようせいしゅひゆし)解題
ーその史料的価値」が面白い。
解説を書いている宮崎の高弟・礪波護の発案で併載が実現した。
康煕帝乾隆帝にはさまれ
国史において目立たぬ存在であった雍正帝に宮崎は光を当てる。


雍正帝―中国の独裁君主 (中公文庫)

雍正帝―中国の独裁君主 (中公文庫)


雍正帝が発明した「奏摺(そうしょう)」という
コミュニケーションの仕組みに着目したい。
地方の文官武官223名に直属上司を通さず、
直接天子に報告を上げさせる仕組みだ。
彼らは本来であれば天子に直接上奏する立場にない。
だからこそ雍正帝は地方の事実を自分の耳目でつかみたかった。




  (静岡の魚屋「魚とし」さんがお年賀に送ってくれた
   小鰭酢じめ、あん肝で一杯やりながら本を読む)


鍵のついた小箱4つをひとりひとりに持たせ、
合い鍵は雍正帝自らが持つ。
のべ数百の小箱が常に地方と中央を行ったり来たりして
公式文書とは異なる親展状として天子に届けられる。
驚くべきはそのひとつひとつの報告に
天子が朱字を入れ、部下それぞれに返信したことだ。
「雍正硃批諭旨」はそのやりとりをまとめた書である。
その読み解きに宮崎は注力したのだ。



官僚をいかに使いこなすかは
清王朝雍正帝だけの問題ではない。
現代における世界各国、日本のどの政権も同じ問題を抱えている。
コミュニケーション改革を統治改革に結びつけた雍正帝の創造性。
そこに着眼した宮崎の書は
50年以上前の著作とは思えない鮮度を今も持つ。


(文中敬称略)