佐藤栄佐久『福島原発の真実』(2011)『知事抹殺』(2009)


佐藤栄佐久福島原発の真実』(2011)、
『知事抹殺ーつくられた福島県汚職事件』(2009)を読む。
前著は3.11以後、後著は3.11以前の出版である。


福島原発の真実 (平凡社新書)

福島原発の真実 (平凡社新書)


佐藤元福島県知事の事件は奇妙である。
佐藤は第5期18年目の2006年に
県発注のダム工事をめぐる汚職事件で司法の追及を受ける。
県政を混乱させた責任を取り自ら辞職。
その後二審判決で収賄金ゼロと認定されながら
有罪判決を受けている。


知事抹殺 つくられた福島県汚職事件

知事抹殺 つくられた福島県汚職事件


佐藤は県民の圧倒的支持を背景に
国の原子力行政、道州制導入などに
是々非々の議論を仕掛けてきた。
決して原発断固反対の立場ではなかったが、
国と東電による不透明な行政、運営に警句を発してきた。
そして検察により逮捕、一審二審での有罪判決である。
この関連をどう考えるか。



検察官の定義はこうである。


   刑事事件に際し、公益の代表として被害者に代わって
   被疑者を裁判所に訴え、裁判の執行を監督する。


     (文英堂『理解しやすい政治・経済』(p.81)より引用)


「公益の代表」というのが曲者である。
どうとでも解釈することができるからだ。
確かに検察庁が過去の日本の歴史において
政治家、大企業経営者などの巨悪を暴き
裁いてきた功績があるのは事実である。
他方において「公益の代表」である立場を検察が自己拡大し、
データ捏造をしてまで権限を乱用する事件が起きている。
2010年の厚労省村木厚子裁判である。



最高裁判所長官は内閣の指名であり、
最高裁裁判官は内閣の任命である。
したがって内閣の意図を
もし「公益の代表」とイコールであると判断するなら
最高裁佐藤栄佐久に対する二審判決をくつがえす可能性は低くなる。
原子力行政にせよ、議論は残るが道州制導入にせよ、
国が推進している政策であるからだ。



社会正義とはなにか。
そして現在の日本の司法制度の持つ欠陥はなにか。
法治国家の法はどこまで個人を守ることができるのか。
気丈な元知事ですら親族、支援者、関係者が
検察の取り調べにさらされることに耐えきれず偽りの自供をした。
佐藤の二冊の著書を読み、
国家と個人の関係について深く考えさせられることになった。


理解しやすい政治・経済(改訂版)

理解しやすい政治・経済(改訂版)


(文中敬称略)