佐藤優『プラハの憂鬱』(新潮社、2015)


佐藤優の物語の叙情性はどこから来るのだろう。
ゼロからの創作ではなく、
自分の人生の記憶をベースにした作品群は、
ドキュメンタリーとも小説とも違う
独自の表現領域を開拓している。
佐藤優プラハの憂鬱』(新潮社、2015)を読む。


プラハの憂鬱

プラハの憂鬱


「あとがき」から引用する。


   客観的に測った時間ならば、
   英国での1年2ヶ月は、私の人生の中で、
   取るに足らないくらい短い。
   しかし、私の人生に与えた影響ということならば、
   ソ連崩壊を目撃したことや、
   東京地検特捜部に逮捕された経験に匹敵する重みを持つ。
   (略)



   現在になっても、英国時代のことを何度も思い出し、
   それを作品にしたいという意欲が生まれてくるのは、
   あの1年2ヶ月の生活に、
   その後の私の人生が凝縮されているという想いがあるからだ。
                        (p.329)


紳士協定: 私のイギリス物語 (新潮文庫)

紳士協定: 私のイギリス物語 (新潮文庫)


1986年夏、ホームステイ先で出合った
聡明な少年グレンとの出会い、別れを描いた
前作『紳士協定—私のイギリス物語』に続く第2作。


チェコからの亡命者で
BBC国際放送アナウンサー兼記者。
ロンドンの古本屋インタープレス社長、
ズデ二ェク・マストニークとの出会い、別れが
今回の物語の中心に置かれている。


外務省同期のロシア語研修生、
その後キャリアとして昇進した友人、武藤顕君との別れ。
15年後、鈴木宗男代議士疑惑に連座し、
著者が検察に逮捕された事件でふたりは予想もしなかった接点を持つ。
ドキュメンタリーをベースにした物語は
複層の余韻を読者に残す。



第三作はチェコプロテスタント神学者
ミラン・オポチェンスキーに取り組むと筆者は書いている。
楽しみだ。


(文中継承略)