佐藤優『君たちが忘れてはいけないこと—未来のエリートとの対話』(新潮社、2019)

聞き手の設定する質問のレベルが高く、熱意が備わると、
対話はこんなに面白くなるんだと思った。
『君たちが忘れてはいけないこと—未来のエリートとの対話』
(新潮社、2019)を読む。


君たちが忘れてはいけないこと: 未来のエリートとの対話

君たちが忘れてはいけないこと: 未来のエリートとの対話


巻末にこう記されている。


   本書に採録された講義は
   私立灘高等学校生徒会の主催する社会人訪問行事の一環として
   2016年、2017年、2018年の各4月に、
   佐藤優氏の仕事場で行われたものです。


本書はシリーズ2作目。
第1作には2013〜15年の三年分の講義が収録されている。
「あとがき」から引用する。


   灘高の生徒たちが学識においても人間性においても優秀であることは、
   本書を読んでいただければわかる。
   彼らは、先輩が過去に私と議論したことを研究した上で、
   毎回、新たな論点を提示する。
   私は灘高の生徒たちが訪れる2、3週間前から、
   メモを作成して生徒たちととの討論に備える。
                         (p.259)

「生徒による事前質問の要旨」から一部抜粋してみる。


   論点1 資本主義の変化と世界の未来
   (1) 新・帝国主義


   アメリカの没落に特徴付けられる現在の新・帝国主義の時代にも
   パワーシフトが起こり、国際新秩序が形成されると予想できるが、
   佐藤先生の著書『世界史の極意』には
   「新・帝国主義は全面戦争によって共倒れになることを
   回避する傾向を持つ」とあった。


   全面戦争が行われない場合、アメリカの次の覇権国家はどのようにして
   決定されるのか。そしてそれはどの国家になると想定されるか。
   「資本の過剰」による慢性的不況が発生した場合、
   その捌(は)け口としての軍需産業の拡大が戦争をもたらす可能性はあるのか。
   また、平和のための世界システムは資本主義の反復の歴史に耐えられるのか。
                                 (p.16)


日々の仕事に追われるあまり勉強を怠っているビジネスパーソンなら
たじたじとなるような質問がいくつも用意されている。
佐藤さんの回答も通り一遍でなく、
そこから灘高生たちが自分で考えるためのヒント、
参考文献が具体的に提示される。


この企画は新潮社編集者を通じて、
灘高生徒会から佐藤さんに申し入れがあった。
佐藤さんが中学生時代、数学を教わった学習塾、
早慶学院柏木先生が灘中高出身だったため、
引き受けることにしたのだ。



本書出版にタイミングを合わせて第一作が新潮文庫に収められた。
巻末に栄光学園中高生への名講義
『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』の著者
加藤陽子東京大学大学院教授との対談が掲載されている。
早く読みたいなぁ。
(単行本を持っているので、文庫は図書館で借りようと思います)