古市憲寿評:佐藤優『新世紀「コロナ後」を生き抜く』(新潮社、2021)

クリッピングから
新潮社PR誌「波」2021年2月号(通巻第614号)
最強の先達・佐藤優と読む「コロナ」
  ー佐藤優『新世紀「コロナ後」を生き抜く』
古市憲寿ふるいち・のりとし 社会学者・作家)


新世紀「コロナ後」を生き抜く

新世紀「コロナ後」を生き抜く

  • 作者:佐藤 優
  • 発売日: 2021/01/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


出版各社PR誌を読む楽しみのひとつは
誰の新刊を誰が書評するか、編集部の人選だ。
佐藤優の新刊書評を古市憲寿が書いている。


  独学がしやすい時代だ。
  (略)


  しかし独学には注意点がある。
  ともすれば、情報を頓珍漢につなぎ合わせて、
  とんでもない解釈で本を読み込んでしまう危険性がある。
  皮肉なことに、勉強家であるが故に、
  陳腐な陰謀論者になってしまった人も多い。
  だから昔から教育機関では、
  輪読など「先生と学生が一緒に本を読む」という行為が行われてきた。
  (略)


  そこで本書では、佐藤優さんが先達となり、
  二冊の名著を読み解いていく。
  実際に数十人の受講生と共に実施された、
  双方向のオンライン講座が元になっていて、
  そのやり取りも含めて理解が深まる仕掛けの本だ
  (『学生を戦地に送るには』など佐藤さんの講義録シリーズはとにかく読みやすい)。


  二冊のセレクションがまたいい。
  一昔前の文系の大学院生なら誰もが読んだふりをしていた
  エリック・ホブズボームの『20世紀の歴史』と、
  コロナがきっかけで再注目されたアルベール・カミュの小説『ペスト』だ。
  実はどちらの本も、「読みやすいのに理解しにくい」。


ペスト(新潮文庫)

ペスト(新潮文庫)


佐藤の新刊を読者に紹介しながら
ときどきピリリと辛辣な指摘がはさむのが古市らしい。


  このように独学では辿り着けない「読み」を佐藤さんは展開していく。
  その上で本書が目指すのは、コロナ時代を生き抜く知恵を身につけることだ。
  よく「古典を学ぶと現代を生きる上でも役立つ」と言われるが、
  実際の活用方法まで教えられる人は少ない。
  そして古典に詳しい研究者が、
  現代社会に対してあまり鋭い指摘をしているようにも思えない。
  (略)


  どちらにせよ、自己防衛の手段としても
  知識がますます重要になるのは確かだ。
  その意味でも、名著を死蔵させておくことは勿体ない。
  佐藤優という頼りがいのある先達が同時代にいることを喜びたい。


文章の端々に古市の佐藤に対する敬意が感じられる。
古市の書いたものも読みたくなるのが、
僕にとって書評の効用のひとつだ。


(佐藤自身、一流の書評家でもある。古市の新刊の帯にも推薦の言葉を寄せている)