橋爪大三郎評:佐藤優『池田大作研究』(朝日新聞出版、2020)

クリッピングから
毎日新聞2020年12月5日朝刊
「今週の本棚」『池田大作研究ー世界宗教への道を追う』
佐藤優著(朝日新聞出版・2420円)


池田大作研究 世界宗教への道を追う

池田大作研究 世界宗教への道を追う

  • 作者:佐藤 優
  • 発売日: 2020/10/30
  • メディア: 単行本


橋爪大三郎佐藤優の新刊『池田大作研究』を取り上げた。
どんなアプローチをするのか、見ものだ。


  創価学会名誉会長、SGI創価学会インターナショナル)会長をつとめる
  池田大作氏の評伝である。
  佐藤優氏は外務省の元分析官。
  オシント(公開情報諜報(ちょうほう))の技法にもとづき、
  池田氏の著作『人間革命』『新・人間革命』計四二巻を内在的に読み解く。
  池田氏の目を通した創価学会のありようが再現される。


  著者が最も力を入れたのが、
  夕張炭鉱労組事件、大阪事件、言論弾圧事件の分析だ。


  夕張では、創価学会系候補に票が集まり、労組の圧力がかかった。
  学会をやめるか労組をやめ失職するか。
  民主主義の原則を楯(たて)にはねのけた。


  大阪では、末端学会員の選挙違反が、
  組織ぐるみだと幹部の池田氏が逮捕された。
  裁判は無罪だった。


  藤原弘達著『創価学会を斬る』の出版を妨害したと騒ぎになった。
  藤原氏は内閣調査室(当時)と関係があり、
  仕組まれた罠(わな)だった。
  池田氏の逮捕と取り調べの場面は、
  著者自身の体験と重なり迫真の描写だ。


  創価学会のような熱烈な宗教団体への偏見と誤解を除去したい
  という著者の狙いは成功している。
  ときに学会に寄りすぎに見えるほどだ。
  つぎは組織神学の手法で、
  創価学会の教義自体を解明してもらいたい。

                    (橋爪大三郎社会学者)



著者の立ち位置から付かず離れずの距離で
本書のエッセンスを約500字で伝える技はさすがだ。
本を手に取るかどうか、それをどう読むかは
あくまで読者に委ねる書評家の姿勢を貫く。
「つぎは組織神学の手法で、創価学会の教義自体を解明してもらいたい。」
コラムの最後で、欲張りな読者を代表して著者に注文をつけている。


書評のおしごと―Book Reviews 1983‐2003

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(書評だけをまとめた橋爪の著書)(橋爪・佐藤の共著)
新・人間革命 (第1巻) (聖教ワイド文庫 (011))

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