クリッピングから
朝日新聞2020年12月1日朝刊
世界発2020/経済制裁 イランの家計圧迫
超大国アメリカ主導の西側諸国による経済制裁が
イランの人たちの生活をどう変えているか。
飯島健太記者(テヘラン)の記事でその一面が窺えた。
トランプ米政権による経済制裁で大きな打撃を受けてきたイランで、
悪化する暮らしに国民の不満が募っている。
来年6月に迫った大統領選では「経済」が大きな争点になりそうだ。
米国のバイデン新政権への期待もあるが、苦境打開につながるのかー。
テヘラン北部の住宅街にある果物店で、
店主のアミールさん(38)がレジ横に貼られた
20〜30枚の白い紙を見て、ため息をついた。
「いつ支払ってくれるんだろうか」。
印字されているのは、客の「ツケ」の金額だ。
給料を受け取れない客が増えるにつれ、
紙のレシートがたまっていった。
(レジ横に貼られた「ツケ」のレシート=11月7日)
店で売る果物の値段はこの1年で2倍〜4倍超に。
オレンジは1㌔5万リアル(実勢レートで20円)から
23万リアル(同95円)になった。
1日あたりの客は150人に半減した。
物価上昇は特に昨年5月以降、急激に進んでいる。
イラン統計局によると、消費者物価指数は
今年11月までの年間平均で前年同期比29%上昇した。
背景には、イランを「世界最大のテロ支援国家」と呼ぶ
トランプ米政権による「最大限の圧力」政策がある。
(略)
外貨不足で通貨リアルは暴落。
輸入が滞り、物が不足し、全体的な物価高へと広がった。
そこへ、コロナ禍が追い打ちをかけた。
家計の圧迫が買い控えを招き、経済をますます冷え込ませている。
テヘラン中心部の衣類店では
制裁が解除された4年前と比べて売上高は8割減った。
店長のアラシュさん(39)は
「制裁が解除された後は順調に客足が戻った。
今はもう衣類を買う余裕がないのだろう」。
諦めたような表情で、閑散とした表通りに目を向けた。
(略)
(キーワード解説)米国の対イラン制裁
トランプ政権は2018年8月以降、
自動車や金属、金融、原油など幅広い分野を制裁対象とし、
イランとの取引を禁止した。
各国がイランとの経済関係を見直す契機となり、
イランには決定的な打撃に。
日本など第三国がイランと取引すると多額の制裁金を課されたり、
ドル決済の枠組みから排除されたりする可能性があり、
各国は米国とイランのどちらを選ぶのか「踏み絵」を迫られた。