猪木武徳『経済学に何ができるかー文明社会の制度的枠組み』(2012)


猪木武徳『経済学に何ができるか
ー文明社会の制度的枠組み』を読む。
同じ著者の『戦後世界経済史』(2009) を以前読み
おおいに啓発された記憶があるので新刊を手にした。



「はしがき」で猪木はこう書く。


  経済学は無力だ、という皮相な批判が語られる昨今、
  できるかぎり偏りのない視点で、
  経済学に依りつつ経済社会の制度や慣行の
  意味を考える手掛かりになればと思い、
  本書を執筆することにした。


                (本書p.iより引用)



なるほど経済学と制度・慣行を結びつける思考は
普段僕にはなかった。
本書の章立てをいくつか見てみよう。


  税と国債ギリシャ危機を通して見る(第1章)
  インフレーションの不安ー貨幣は正確には操作できない(第3章)
  なぜ所得格差が問題なのかー人間の満足度の構造(第6章)
  知識は公共財かー学問の自由と知的独占(第7章)


そして終章は「経済学に何ができるか」に当てられる。
猪木の筆致は終始冷静で、
不安を駆り立てるような一部ジャーナリズムの書き方とはまるで異なる。
普段結果だけを見て語っている現象の本質について
経済学の手法を使って再度考えるきっかけができるのだ。



人間は社会の中でしか生きられない。
その社会はさまざまな制度が枠組みとなって支えている。
多くの制度が経年疲労を起こしているからと言って
制度そのものを過小評価してはならないと本書で猪木は語りかける。
制度は文明が生んだ知恵でもあるのだ。
中公新書書き下ろし。


戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)

戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)


(文中敬称略)