時には日本語に耽溺したいと思う。
角田房子『味に想う』を読む。
角田は新聞社パリ支局長を務めた夫とヨーロッパを旅した。
その頃の思い出を「味」の一点に絞って書き留めた。
1986-87年、日本経済新聞夕刊に週一回連載したエッセイをまとめ、
文庫化にあたって「亡夫の思い出」を書き加えた。
ブルゴーニュの赤を愛した夫との最期の時間をスケッチした一篇は
知らず知らず目頭が熱くなる。
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角田は『閔妃暗殺』『甘粕大尉』などで知られる
ドキュメンタリー作家である。
ムダのない硬質の文体だが、ときおり人情の断片が覗く。
ヨーロッパの夏を想わせる湿度の低さが
読んでいて僕はとても心地いい。
例えば小田急線東北沢駅に近い小店「おさ田」の一篇。
その小店が近隣、常連のみなさんを
どれほど心和ませているかを淡々と描き、こう締めくくる。
「おさ田」のような温かい店は全国に散在しているだろう。
それと出会い、店にはいるたびにほっと心をなごませるのは、
都会に住む人のしあわせの一つではないか
ーと私は思っている。
(中公文庫p.196より引用)
読んでいるうちに13席しかない「おさ田」のカウンターで
僕もひとり飲んでいるような心持ちになってくる。
(文中敬称略)