村上春樹『独立器官』(2014)


連載4作目となり、厚みのある短編作品群になってきた。
村上春樹「女のいない男たち」シリーズ『独立器官』を読む。
都心で美容整形外科医を務める渡会の物語。
主人公の名字は渡会=都会、と読み取れる。



村上はなぜこの連載を『文藝春秋』に託したのだろう。
これまでの村上の読者層からするとやや年齢が高いメディアだろう。
副題「女のいない男たち」も村上にしては垢抜けないなと思っていた。
ご覧のようにイラストレーションも冴えない。


4作読み続けると、女と愛を育むことのできない、
もしくは女への愛そのものを喪失する男たちの姿が浮かんでくる。
行間の向こう側に透けて見えてくるのは現代日本の心象風景か。



渡会はこれまでの人生で一度も恋を体験したことはない。
複数の女性たちと同時に付き合う技術が人並み外れて高い。
腕利きの美容整形外科医として、
収入、社会的地位もある。
渡会が初めて恋に落ち、恋の行く末がどうなったか。


渡会はある時筆者に
アウシュビッツ収容所の例えを唐突に告白する。
それが物語の結末の伏線になっていく。
このペースで10篇から12篇ほど揃えば、
いい短編集になる予感がしてきた。




(文中敬称略)