在職老齢年金物語


会社の人事局の方から一通り説明を受けて
ある程度理解していたつもりだったが、
いざ自分で動いてみると理解が浅かったことを思い知った。
提出書類がようやく揃い大門の年金事務所に出掛けた。
在職老齢年金受取申請手続きのためだ。


一人あたり30分ほどかかるらしく、
僕の前に二人先客がいて最長1時間の待ち時間だった。
その訳は担当者と面談して分かった。
揃えたつもりの書類が不備だったり、
受け取るタイミングやルールを確認するのに時間がかかった。
ようやく申請を受け付けてもらい、
今後の受取金額を聞き愕然とした。
「それって年額ですか?月額の間違いでは?」
そこからの質疑応答が当日一番の大仕事だった。



   (大王「わたしらに、ねんきんはありませんのじゃ」)


不承不承納得して申請を済ませ
自宅に戻って再度社の書類や
年金事務所で出してもらった数字のシミュレーションを確かめた。
以下のことが分かった。


1. 定年退職前、正社員として務めた最後の2ヶ月を対象とした
 賞与を昨年6月にいただいた。その収入のため年金停止額として
 賞与の83.9%に相当する金額が減額された。
 つまり、「最後の賞与」で少々息がついた、
 と僕や同居人が思っていたとき、
「金庫」の裏側には穴が空いていて
 国家は賞与の83.9%を「合法的に盗んで」いたのだ。
 強盗と違って全額持って行かれなかっただけ
 有難いと思えばいいのか。


2. 昨年12月からシニア契約社員として年俸300万円で働いている。
 1.と同様に、その給与をいただいているがゆえに、
 年俸の1/3に当たる約100万円が在職中は年金停止額として減額される。
 つまり、僕は年俸300万円だと理解していたが、
 実態は週35時間の労働で年俸200万円だったのだ!
 (ワーキング・プアの基準をりっぱに満たしております)



僕の同僚たちや、世間の会社員は
年金制度のこうしたからくりをどこまで精確に理解しているのだろうか。
壊れかけている国の年金制度の負担を
民間に肩代わりさせている実態を身をもって知った。


悄然とした僕を見て、
女性係員Sさんが気の毒そうな表情になった。
Sさんは丁寧に説明しきちんと自分の仕事をした訳だから
なんの罪もない。むしろ感謝したいくらいだ。
「みなさんの面談に時間がかかるのがよく分かりました。
あなたも大変なお仕事をなさってますね」
と声を掛けるのが僕には精一杯で、
肩を落とし事務所を後にした。