恩人と銀座で一献傾けた日


夕刻から雪に変わるかもしれないと予報があったので
空模様をときどき眺めながら過ごした。
電車が停まるようなことになれば
帰宅が厄介になる。
今宵は僕の仕事の恩人であるNさんをお誘いして
銀座で一献傾ける約束だ。



Nさんは酒は飲まないから、
もっぱら僕が飲む。
同居人もやや遅れて駆けつける。
「大雪になりそうだったら中途で切り上げて、
 再度やりましょう」と始める。
僕が2002年から06年まで三度カンヌセミナーをやれたのも、
06年から08年まで社費でベルリンスクールに通えたのも、
すべてNさんがくださった機会だった。



   (ベルリンスクールサイト/マイケル・コンラッド学長)


Nさんは業界の大きな賞を受けることになり、
来月には授賞式を控える。
しかし、そうした世事に少しも煩わせられない
大人の趣を持つのがNさんだ。
サルトルを読んでいる」
ポストイットをはさんだペーパーバックを見せてもらいたまげた。
言語学専攻だったことは知っていたが、
フランス語原文でサルトルとは。


僕のこの数年の仕事の話も聞いていただき、
率直な助言も受けた。
久しぶりに耳が痛くなる思いがした。
銀座でしばしば飲めるような身分ではないけれど、
時にはこうした時間を持てるといいなと思った。
幸い、雪にはならずに済んだ。
Nさんと別れ、近くのバーに行こうと同居人が言った。