宇野弘蔵『資本論に学ぶ』(1975/2015文庫版)


2014年からのトマ・ピケティブームの余波だろうか。
長く忘却されていた学者の著作が40年ぶりに復刊した。
宇野弘蔵資本論に学ぶ』を読む。



資本論』初心者には次のような一節がとても参考になった。


   『資本論』の第一巻の「資本の原始的蓄積」
   あるいは「本源的蓄積」と訳されている二十四章というのは、
   ちょっとおもしろい章なのですね。
   というのは、資本主義になる以前、
   資本主義になる過程を取り扱っている。


    (中略)


   その次の二十五章といっしょに読んでいただくと
   なおよくわかる。
   これは『資本論』に入門するのにいい章だと、
   こう考えていいと思うのです。
   これは歴史的な過程を書いてあるのですから、
   理論はそう言わないでもわかるのです。


    ( pp.096-097より引用)


さっそくこの二章を原典で読んでみたが、
宇野の言うとおりとても分かりやすかった。
と同時に資本主義になる過程とは
なんて非人間的なグロテスクなものなのだろうと思った。


いまでいうブラック企業、非正規雇用、派遣切りが
比較すればずいぶんマシに思えてくるから恐ろしい。
人間が他の人間をどれだけ抑圧し収奪できるのか、
後のナチズムにもつながる非人間的合理性がここにある。



本書は講演、対談を収めた本だから、
宇野の著作を読むよりはよほど分かりやすい。
それでも僕には宇野がなぜそこにこだわるのか
理解できない箇所がいくつもあった。
学者としてぶれない一徹の人であることは
この小著を読むだけでも充分分かる。


社会福祉などのブレーキが冷戦後外れた「資本主義」は
宇野の理論通り「暴走」する。
暴走し恐慌を起こしてほぼ永久に続くかの如く運動するのが
資本主義の本質であるとは僕は気付かなかった。


本書はちくま学芸文庫として復刊。
学術書に準ずる著作で部数がさほど出ないのだろうか、
文庫でも本体価格1,100円(高いね)。
僕は手元に置いておこうと古書市場で購入したが、
図書館サイトで探して一読してもよいと思う。


経済原論 (岩波文庫)

経済原論 (岩波文庫)


  (『経済原論』は岩波文庫で1月復刊)


(文中敬称略)