石井妙子『おそめ—伝説の銀座マダム』(2006/2009文庫版)


この本の中にはいまでは滅びてしまった京都と銀座があり、
そこに暮らしていた人たちが息を潜めている。
石井妙子『おそめ—伝説の銀座マダム』を読む。


おそめ―伝説の銀座マダム (新潮文庫)

おそめ―伝説の銀座マダム (新潮文庫)


祇園芸妓から銀座マダムに転身し、
政財界人、文化人に愛された人。
そうした経歴から想像する女性と、
本書の主役「おそめ」はまるで違う。
天衣無縫で、無私の人である。


石井は寡黙なおそめの元を何度も訪れながら、
周囲の人たちをインタビューし、
当時の週刊誌の記事などを丹念に読み解く。
そして、おそめの実像に限りなく接近し、
なぜ、この人の周囲に人が集まってきたのか、
あれほど繁盛した店がなぜ衰退していったのか。
その謎に迫っていく。



淡々とした文章を追っていくうちに、
滅びた京都、銀座が想像の中で甦り、
おそめの店の片隅で自分が水割りグラスを傾けて
人々を観察しているような気持ちになってくる。
一世を風靡した文化が滅びた後で、
次の世代の人間はどうしてなにもかも知らずに、
そうした文化があったことすら知らずに生きているのだろうか。



石井は毎日新聞囲碁欄を担当してきた人だ。
その人がおそめ相手に5年の歳月をかけて
一手ずつ根気よく囲碁勝負したようなノンフィクション作品だ。


(文中敬称略)