ハサミシャッキリ、ナタヅカコッチリ(河田操)


スクラップブックから
朝日新聞2018年4月6日朝刊
読者投稿欄「ひととき」
愛知県愛西市 河田操 無職 79歳



   20年近く働いたデパートの清掃員を
   退職することになりました。
   これから毎日休日だ、と気が楽になり、少し寂しさも感じたとき、
   とても久しぶりに、祖母の言葉を思い出しました。


   祖母は、自分の名前しか読み書きできない人でしたが、
   「桃太郎」や「さるかに合戦」のほか、
   「番町皿屋敷」や「忠臣蔵」といった難しい話も面白く語ってくれ、
   終わりはいつも、「ハサミシャッキリ、ナタヅカコッチリ」
   と締めくくるのでした。
   ハサミもナタも、仕事の道具。
   一日をしまう言葉だったのだろうと思います。
   (略)


   「シャッキリとして逝かしゃった」
   と村のお年寄りを見送っていた祖母は、
   私が小学校4年生のとき、
   数日病んだだけでシャッキリと亡くなりました。
   冬支度がととのった11月半ば、
   子や孫にみとられて息を引き取りました。
   77歳でした。




「ハサミシャッキリ、ナタヅカコッチリ」。
70年近く前に聞いた言葉が蘇るって、
人間の記憶って不思議です。
言葉の響きが童話風で面白いですね。


河田さん、投書に「無職」と書くとき、
感慨無量だったのではないでしょうか。
おばあさまがシャッキリと逝かしゃった年齢を越えて
仕事を続けてこられ、ご立派です。
退職後、心安らかな日々をお過ごしになれますよう。