ランドセルの今後(白井麻奈美)

クリッピングから
朝日新聞2021年4月10日朝刊
読者投稿欄「ひととき」
ランドセルの今後
東京都青梅市 白井麻奈美(主婦 49歳)


  3月に小学校を卒業した娘が、
  6年間使った淡い紫色のランドセルの絵を
  図工の授業の時間で描き、プレゼントしてくれた。
  筆ペンや絵の具を使い、
  細かいハートの刺繍(ししゅう)や小さな傷も
  丁寧に描いてあった。


  「6年間毎日見送ってくれてありがとう。
  毎朝うれしかったです」。
  家族へのお礼も書いてあった。


  うれしくなってリビングに飾りながら、
  ランドセルの今後を話していたら、
  「おかしいと思う?」と娘。
  「何が?」と返すと
  「災害のときに慌てずに行動するために、
  身の回りの物を、軽くて背負えるランドセルに
  詰めておきたいんだけどさぁ」と言われた。
  「ランドセルに?」と思わず言葉が出てしまった。
  「やっぱり変だよね……」と娘は返した。


  学校で避難訓練をしたり、
  3月11日には授業中に黙禱(もくとう)もしたりして、
  娘なりに防災について考えていたようだった。
  確かにランドセルはぴったりだ。
  いつ起きるかわからない災害に冷静に対応しようとする考えに、
  見た目や形にこだわっていた私が恥ずかしくなった。


  今、娘の部屋の机のそばには、
  軍手や鉛筆、タオルを詰めたランドセルが置いてある。


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娘さんのアイデアを受け止められなかった自分を
「恥ずかしくなった」と書ける白井さん。
このお母さんがいて、素敵なお嬢さんに育ったんだなぁ、
と温かい気持ちになりました。