クリッピングから
朝日新聞2021年4月10日朝刊別刷be
フロントランナー 作詞家 松本隆さん(71歳)
生まれ育った青山と麻布、渋谷を結んだ三角形を
「風街」と呼んで懐かしむ。
「変わり続けるのが東京の宿命だけど、壊しすぎだよ。
ここまでくると、もう暴力だね」
1969年、細野晴臣、大滝詠一、鈴木茂と
「ヴァレンタイン・ブルー」結成。
70年に「はっぴいえんど」に改名。
ドラムと作詞を担当。
アルバム「風街ろまん」などを発表して72年解散。
「売れて、いいものは残る」
「売れても、よくないものは残らない」
あと「売れなくても、いいものは残る」
本当によかったらロングセラーで残る。
はっぴいえんどがそう。
3枚とも廃盤になってない。
すごく稀有(けう)な例だけど。
少し前まで「作詞はとても大変な脳の筋肉運動で、
そろそろ年齢的に限界かな」と消極的だったが、新たな詞も手がける。
今、なぜ急転換?
「山谷ブルース」などで知られるフォーク歌手
岡林信康さん(74)の存在があるという。
岡林さんは3月に23年ぶりのアルバム「復活の朝」を発売した。
「脳が固まって動かなくなる年齢なのに、新譜を出し、
しかも売れていると聞いた。
中身もコロナや政権批判、老年の諦観(ていかん)まで幅広い」。
大きな刺激を受けたという。
75歳を過ぎて作詞作曲ができるのは
ボブ・ディランとポール・マッカートニーだけ。
あの人たちは宇宙人だから。
脳が固くなって日本人には無理だと思ってた。
でも岡林はあの年(74歳)で新しく作っちゃった。
僕も「70歳を過ぎたから自分は終わった」なんて
思っちゃいけないんだと。
(文・畑川剛毅/写真・西畑志朗)