横尾忠則評:矢崎泰久・和田誠『夢の砦 二人でつくった雑誌「話の特集」』(ハモニカブックス、2022)

クリッピングから
朝日新聞2022年12月10日朝刊
読書面『夢の砦 二人でつくった雑誌「話の特集」』
矢崎泰久和田誠<著> ハモニカブックス 2310円 

評・横尾忠則(美術家)



  1965年だった。
  和田誠矢崎泰久に会ってくれと言った。
  「話の特集」という雑誌を創刊したがっているが、
  「俺は題名が嫌だ」と和田は言いながら、僕に表紙を描けという。
  無職状態で金がなかったので引き受けた。


  表紙の絵は信じられないほど評判が悪かった
  (だけど、この表紙なら原稿を書くという作家も現れた
  と矢崎は言う)。
  創刊1年後にサンタクロースが首を吊(つ)った表紙を描いたら、
  本当にこの号を最後に「話の特集」は休刊してしまった。
  休刊になったのは表紙のせいだという悪評が流れたが、
  再び復刊した時も表紙を描かせてくれた。
  (略)


  そんな矢崎と和田の本書で、
  最も面白いのはシノ(篠山紀信)、タッちゃん(立木義浩)、
  マコちゃん(和田誠)、ヨコーちゃん(横尾忠則)、
  それに矢崎さん(何故(なぜ)かさん付け)の5人の、
  創刊20年を記念して語られた1985年2月号の座談会。


  創刊当時、若手の写真家、イラストレーターは
  まだ駆け出しのプライドだけが強く、
  口だけは達者で人後におちないナマイキさ。
  歯に衣(きぬ)を着せない、言いたい放題、やりたい放題の
  カラ元気と妙な自信のある仲間ばかりで、
  どうせ原稿料はくれない、
  だったら「話の特集」で暴れよう、
  でもここで暴れれば暴れるほど、
  他から仕事がこないという矛盾。
  (略)



本書を出版したハモニカブックスのシミズヒトシさん、
作家の鹿島茂さんの対談をオンライン配信「月刊All Reviews」
(2022年12月3日収録・有料配信開始)で見た。
ひとつの時代の夢の跡を追体験するようだった。