俺たちにないのは明日じゃなく昨日(安西大樹)

クリッピングから
讀賣新聞2023年4月10日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
優秀作3首、万智さんの評を読みながら味わいます。


  俺たちにないのは明日じゃなく昨日 
  振り向けば春一番が吹く

          横浜市 安西大樹


    【評】コロナ禍を振り返る歌が多く寄せられた中で、
       最も印象に残る上の句だった。
       映画「俺たちに明日はない」を踏まえ、
       コロナで失われた日々が簡潔に表現されている。
       けれど自然はいつも通り春一番を吹かせていた。


  音合はせしてる梅林合唱団
  二分咲きほどに口を開いて

       青梅市 諸井末男


    【評】少しつぼみのほころんだ梅の花たち。
       足並みをそろえて開く様子を「音合わせ」とし、
       「梅林合唱団」とした見立てが愛らしい。


  レターパックみたいに断言してほしい
  その感情はすべて恋です

           神戸市 若林有紀


    【評】「……すべて詐欺です」というあの力強い断定。
       恋なのだと背中を押してほしい気持ちが、
       日常のアイテムでうまく表現された。