<読売文学賞の人びと> ①
随筆・紀行賞「文化の脱走兵」奈倉有里さん 42

中学生の頃にトルストイが好きになり、
高校生からロシア語の独学を続けた。
進路は「朝から晩までそれだけをやるような、
何かの職人になりたい」と考えていた。
ロシア語を磨き、ロシア文学を原文で読みこなしたいと、
2002年冬にロシアに渡り、
ロシア国立ゴーリキー文学大を08年に卒業。
現在はロシア文学研究者、翻訳者として活躍する。
(略)
受賞作では、日常をつづる合間に詩を織り交ぜた。
例えば「雨をながめて」と題した一編。
憂鬱(ゆううつ)に感じる梅雨の話題から、
<いっそ、思い切り雨の憂鬱に浸ってしまうのもいいかも>
と、北原白秋の『雨』を引く。
<雨がふります。雨がふる。/昼もふるふる。夜もふる。>。
さらにアレクサンドル・ブロークの詩を
<雨の憂鬱を家のなかからながめる心境をうたう詩>として紹介し、
転じて雨を歌う日本のポップソングの分類まで披露する。
憂鬱は消え、詩の楽しさや味わいが心に残る。
これは、自身がロシアでの学生時代、
友人と交わした会話と似ているという。
「連想がつながっていくのが、詩を読む楽しみの一つ。
若い人たちがいま短歌に親しんでいるが、
詩やリズムが自分の生活に入り込んでくる楽しさがある。
詩は翻訳不可能と言われることもあるけれど、楽しさは翻訳可能。
どうにかして、それを伝えたかった」
(略)
雪が好きだという。
最近、新潟県柏崎に家を買った。
「ロシアであれほど雪に囲まれたのに、見ていて本当に飽きない。
朝から外に飛び出して、散歩するんです」。
うれしそうに明かした。
(文化部 高梨しのぶ)





