<読売文学賞の人びと>① 奈倉有里さん「文化の脱走兵」(随筆・紀行賞)

クリッピングから
讀賣新聞2025年2月3日朝刊

読売文学賞の人びと> ①
随筆・紀行賞「文化の脱走兵」奈倉有里さん 42



  中学生の頃にトルストイが好きになり、
  高校生からロシア語の独学を続けた。
  進路は「朝から晩までそれだけをやるような、
  何かの職人になりたい」と考えていた。
  ロシア語を磨き、ロシア文学を原文で読みこなしたいと、
  2002年冬にロシアに渡り、
  ロシア国立ゴーリキー文学大を08年に卒業。
  現在はロシア文学研究者、翻訳者として活躍する。
  (略)



  受賞作では、日常をつづる合間に詩を織り交ぜた。
  例えば「雨をながめて」と題した一編。
  憂鬱(ゆううつ)に感じる梅雨の話題から、
  <いっそ、思い切り雨の憂鬱に浸ってしまうのもいいかも>
  と、北原白秋の『雨』を引く。
  <雨がふります。雨がふる。/昼もふるふる。夜もふる。>。


  さらにアレクサンドル・ブロークの詩を
  <雨の憂鬱を家のなかからながめる心境をうたう詩>として紹介し、
  転じて雨を歌う日本のポップソングの分類まで披露する。
  憂鬱は消え、詩の楽しさや味わいが心に残る。


  これは、自身がロシアでの学生時代、
  友人と交わした会話と似ているという。
  「連想がつながっていくのが、詩を読む楽しみの一つ。
  若い人たちがいま短歌に親しんでいるが、
  詩やリズムが自分の生活に入り込んでくる楽しさがある。
  詩は翻訳不可能と言われることもあるけれど、楽しさは翻訳可能。
  どうにかして、それを伝えたかった」
  (略)


  雪が好きだという。
  最近、新潟県柏崎に家を買った。
  「ロシアであれほど雪に囲まれたのに、見ていて本当に飽きない。
  朝から外に飛び出して、散歩するんです」。
  うれしそうに明かした。

            (文化部 高梨しのぶ)