東京の言葉で綺麗に笑われた春(中島遙)

クリッピングから
讀賣新聞2024年3月11日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  方言で喋ってみてよ
  東京の言葉で綺麗に笑われた春

        小金井市 中島遙


    【評】地方から東京へ転校した場面だろうか。
       ただ方言が珍しいという意味ではないだろう。
       「綺麗(きれい)に笑」うという表現に、
       相手の意地の悪さや自分の悔しさや方言への引け目など、
       複雑な感情が渦巻いている。


  クロッカスもうじき咲くか子の部屋に
  「地球の歩き方」置いてあり

          船橋市 矢島佳奈


    【評】直接の関係はないのだが、取り合わせの妙で、
       クロッカスと子どもの成長が重なって感じられる。
       部屋を出て海外へ旅する日も、遠くなさそうだ。


  地(つち)を蹴るやうに
  写真をスクロールすれば流るるとりどりの色

             八王子市 土屋ひろ菜


    【評】上の句の比喩がみごと。
       早く見たくて前のめりになっている指先が、目に浮かぶ。


今週のもう1首。


  原生林のざわめきだけの感情で
  新しい本棚を作った

       川崎市 からすまぁ



NHKゴガク総視聴回数 3000回達成

アプリ「NHKゴガク」の
これまでの総視聴回数が3000回に達しました。
トロフィー獲得数は124/167個(74%)。
現在は「ラジオビジネス英語」
「まいにちドイツ語」(入門編・応用編)
まいにちロシア語」(入門編・応用編」の5講座を聴いています。




NHK語学講座は1967年4月1日から聴き始めて
57年目のシーズンがもうじき修了。
大学から社会人にかけて中抜けした時期があります。
2000年に復帰して現在まで続いています。
学習履歴がこうしてアプリで見られるのは励みになりますね。
ゲーム感覚、いいですね。

あっ! 目を落とした

クリッピングから
朝日新聞2024年3月9日朝刊別刷be
読者投稿欄「いわせてもらお」


  ◉「目」違い

  「あっ! 目を落とした」
  と大きな声を出したら、
  10歳の孫が飛んできて
  「あるやんか」とまじまじと私を見る。
  落としたのは編み始めたベストの目だよ。

   (神戸市・編み物デビューのおばあちゃん・72歳)


インターネットで
「ベストの目」を画像検索した僕の理解力は10歳の孫並み?


チョ・ナムジュ/斎藤真理子訳『82年生まれ、キム・ジヨン』(ちくま文庫、2023)

ファン・ボルム/牧野美加訳『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』
ク・ビョンモ/小山田園子訳『破果(はか)』『四隣人の食卓』と読み進み、
僕にとって韓国現代文学への扉が開いた。
チョ・ナムジュ/斎藤真理子訳『82年生まれ、キム・ジヨン
ちくま文庫、2023/筑摩書房、2018)を読む。


(カバーデザイン 名久井直子/カバーイラスト 榎本マリコ


「文庫版に寄せて 著者からのメッセージ」から引用する。


  私にとって「キム・ジヨン」は一人の女性の名前ではなく、
  「まじめで必死だったけれど、どうにもならなかったころ」の代名詞なのです。
  女性にはみんなそういう時期がありますよね。
  私にもありましたし、もしかしたら今もそうなのかもしれません。


  機会があるたびに、
  「『82年生まれ、キム・ジヨン』は私をいっそう良い人間にしてくれたし、
  世の中が少しでも良くなるために役に立っただろう」と語ってきました。
  そうだと信じていた、というより、
  そうであることを望んだのだと思います。


  実はいつも自信がなかったし、今もそうです。
  現実はあまりにも早く変わるのに、
  小説はいつも同じ状況にとどまっているのですから。
  特に2022年の韓国は、時間が逆に流れている気分です。


  キム・ジヨンさんは今も、ましにもならず悪くもなりもせず、
  何かを選択することもそこを去ることもせず、
  問いかけもしないし答えもしません。
  答えを探すのは、小説の外を生きていく私たちの役目であるようです。


  ただ、私にとってそうだったように、読者の皆さんにとっても
  「キム・ジヨン」が何らかの意味であってくれたらと思います。
  それはある時代の名前かもしれないし、共感の対象かもしれないし、
  何かに気づく瞬間かもしれないし、必要な記録かもしれないですね。
  (略)


  『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んでくださって
  ありがとうございます。
  軽くなった本を、重くなった心で贈ります。


                チョ・ナムジュ

                 (pp.203-205)


「文庫版訳者あとがき」(斎藤真理子)から引用する。


  とはいえ、文庫版に寄せられたチョ・ナムジュさんのメッセージは、
  「軽くなった本を、重い心で贈ります」という沈んだものでした。
  2022年に就任した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、
  女性対応の政策を司る「女性家庭部」の廃止を公約の一つとして当選しました。


  また、同じ2022年に起きたソウル新堂駅殺人事件では、
  被害者に対する盗撮行為とストーカー行為で裁判中だった犯人が
  勤務現場で犯行に及び、江南(カンナム)女性殺人事件のときと同様、
  女性たちが追悼行動を行いました。
  (略)


  『82年生まれ、キム・ジヨン』が日本にもたらした最大の賜物は、
  「自分自身が当事者だったんだ」という認識を読者に抱かせたことでした。
  「自分にも声があった」と気づいた人たちは、
  世の中で苦しそうに上げられている別の声、
  そしてまだ上げられてない声への想像力を育てることができるでしょう。


  2019年に、ある新聞社の取材を受けたとき、
  私は「(国どうしの大きな物語が衝突している横で、
  小さな物語の交流は続いている」と話しました。
  今もこの感想は変わりません。

                          (pp.251-253)



柳瀬博一&鹿島茂対談:柳瀬博一『カワセミ都市トーキョー』(平凡社新書、2024)

書評サイト AllReviews が毎月会員向けに無料で提供する
月刊 AllReviews(非会員は有料で視聴可能)。
ノンフィクション担当・鹿島茂さんが2月のゲストで迎えたのは
柳瀬博一(やなせ・ひろいち)さん(2024年2月10日収録)。



柳瀬さんの新刊『カワセミ都市トーキョー
ー 「幻の鳥」はなぜ高級住宅地で暮らすのか』
平凡社新書、2024)を読み解く。
平凡社サイトから本書概要を引用する。


  鮮やかな色合いと独特のフォルムで老若男女から人気の野鳥カワセミ
  「清流の鳥」というイメージが強く、
  戦後の公害や水質汚染で東京から姿を消していたが、
  近年では23区部で子育てしているという。
  しかも暮らすのは東京屈指の高級住宅街の数々──。


  カワセミは世界屈指の人工都市トーキョーにどう適応し増えているのか? 
  カギは、ヒトもカワセミも大好きな地形「小流域源流」。
  “青い鳥”が住む街は、なぜ人間も暮らしやすいのか。
  ベストセラー『国道16号線』著者による新たな都市論。


柳瀬さんは東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授(メディア論)。
池上彰さん、中島岳志さんらの同僚。