東京の言葉で綺麗に笑われた春(中島遙)

クリッピングから
讀賣新聞2024年3月11日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  方言で喋ってみてよ
  東京の言葉で綺麗に笑われた春

        小金井市 中島遙


    【評】地方から東京へ転校した場面だろうか。
       ただ方言が珍しいという意味ではないだろう。
       「綺麗(きれい)に笑」うという表現に、
       相手の意地の悪さや自分の悔しさや方言への引け目など、
       複雑な感情が渦巻いている。


  クロッカスもうじき咲くか子の部屋に
  「地球の歩き方」置いてあり

          船橋市 矢島佳奈


    【評】直接の関係はないのだが、取り合わせの妙で、
       クロッカスと子どもの成長が重なって感じられる。
       部屋を出て海外へ旅する日も、遠くなさそうだ。


  地(つち)を蹴るやうに
  写真をスクロールすれば流るるとりどりの色

             八王子市 土屋ひろ菜


    【評】上の句の比喩がみごと。
       早く見たくて前のめりになっている指先が、目に浮かぶ。


今週のもう1首。


  原生林のざわめきだけの感情で
  新しい本棚を作った

       川崎市 からすまぁ