行きずりの街とマーケティング

yukionakayama2007-08-05

7月にベルリンに出かけるとき、
旅の慰めになにか文庫本を持っていこうと思った。
日本人とほとんど出会わぬ出張だったので
ときおり日本語が恋しくなる。
会社の近所の書店で選んだのが志水辰夫「行きずりの街」。
帯に「このミステリーがすごい第1位 売れてます!」とある。
このランキングで選ばれた本にそれほど「はずれ」はない。

行きずりの街 (新潮文庫)

行きずりの街 (新潮文庫)

現地で開いてみると確かにミステリー小説と恋愛小説が並行していて、
肩がこらず読みやすい文体だ。なによりストーリーテリングがいい。
文庫の帯を見直すと、『1991年度「このミステリーがすごい」第1位。
最近の「このミス1位」と読みくらべよう』とある。旧作だったのか。
帰国して志水辰夫の他の作品を読もうと何軒かまわったが、
新潮文庫の棚を見ても一冊も見当たらない。
やむなく最初に買った書店をのぞくと、さらに代表作五冊が並んでいた。
帯には『「行きずりの街」爆発的大ヒット!
次は、断然コレです!』とある。五冊まとめて買った。
その店に「行きずりの街」に関する朝日新聞の書評が貼ってあった。
目に留まったので、以下に引用してみる。
●●●
 通称「シミタツ」としてファンに知られる著者の代表作のひとつ。
 単行本は90年、文庫は94年刊行。
 文庫は近年、2年に1度重版がかかるかどうかだったが、
 昨年12月末に「1991年度『このミステリーがすごい!』第1位」
 という帯を付けたところ、突然売れ始めた。
 その時点で12万5000部。新しい帯になって18万1000部。
 3カ月で13年間分の売り上げを超えた。
 (朝日新聞2007年4月8日)
●●●
新潮社にはよほど目利きの販売促進担当者がいるに違いない。
自身もきっとシミタツファンなのだろう。
そして、商売のチャンスを活かす書店とそうでない書店。
ここでも、シミタツ再発見をした店員がいた店は強かった。
帯の言葉を変えただけで、181,000部が売れたのだから
これがマーケティングというものだ。コストはほとんどかかっていない。
僕も行きずりでシミタツに出会い、
またひとつ日々の娯楽を見つけることができた。