小津安二郎シリーズその7『風の中の牝鶏』(1948年)。
戦争で夫を取られ、ひとり息子を育てる若い妻(田中絹代)。
つましく暮らしてきたが
突然大腸カタルに罹った息子の入院代が払えず、
やむなく一度だけ身を売る。
やがて帰国した夫(佐野周二)は
その事実を妻から打ち明けられる。
夫は頭では理解しようとしても
どうしても妻を許せず怒りをぶつける。
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随所に見所はあるものの、
ラストで唐突に妻を許すことになる夫が
僕にはあまりに身勝手に思えた。
これまで観てきた小津作品と比べると
脚本の練り込みがやや不足しているように感じた。
戦争が終わって3年目。
その年に完成したフィルムには
戦後、市井の人々がどんな思いで暮らしていたのか
その時代にしかなかった「気分のようなもの」が定着している。
僕にとって小津作品を観る楽しみのひとつは、
歴史書やドキュメンタリーフィルムで知るのとは異なる、
時代の「気分のようなもの」を体感した気になれるところである。
タイムマシーンに乗って
戦争直後の東京にともに生きている感じとでも言えばよいか。
映画の中で妻を演じる田中絹代を
どこまでも追い詰める監督・小津。
その一方で、一夜の客となった男に
実は男のものが役に立たなかったことを告白させている。
妻の操はギリギリのところで守られていたのだ。
しかも、その事実を妻は夫に対して少しも言い訳には使っていない。
このあたりの抑制された演出はたまらない。
ちょっと唐突なラストシーンも、
このエピソードを思い起こすと、
僕はなんだか救われる気持ちになれるのだ。