科学を戦争に応用しようとする欲望(評・長谷川眞理子)


スクラップブックから
朝日新聞2018年11月10日朝刊
書評 『DARPA秘史—世界を変えた「戦争の発明家たち」の光と闇』
シャロン・ワインバーガー著/千葉敏生訳(光文社、3456円)
評・長谷川眞理子総合研究大学院大学学長・人類学)


DARPA秘史 世界を変えた「戦争の発明家たち」の光と闇

DARPA秘史 世界を変えた「戦争の発明家たち」の光と闇


   DARPAとは、アメリカ国防総省のもとにある
   「防衛高等研究計画局」の略である。
   1957年の秋、ソビエトが初の人工衛星打ち上げに成功した。
   アメリカは宇宙開発で遅れをとったことにショックを受け、
   翌年、アイゼンハワー大統領が
   「高等研究計画局(ARPA)」を設立した。
   これがのちのDARPAだ。
   (略)


   DARPAが手がけた研究で、
   のちに実を結んだものとしてもっとも有名なのは、
   インターネットだろう。
   (略)


   アメリカはつねに戦争していて、
   具体的に解決するべき軍事的課題がある。
   すごいのは、その問題に対する取り組みが、
   自由奔放で奇想天外であるのを許していることだ。


   そして、DARPA職員の経歴の多彩なこと。
   民間企業、軍、大学、研究所などを
   どんどん渡り歩いている。
   これほどの職業の流動性があるからこそ、
   発想も豊富なのだろう。
   また、どんな苦境に陥っても、経費削減されても、
   つねに立ち上がろうとする粘り強さと負けじ魂。


   しかし、もともと戦争の犠牲を最小限にするための
   技術的支援だったはずが、
   科学を戦争に応用しようという欲望が、
   永遠に戦争をなくせなくしている。
   エピローグでの著者による総合DARPA評は、
   個々の技術開発を超えて、
   根源的な問いを発している。



著者Sharon Weinbergerの経歴にはこうある。


   Yahoo Newsワシントン支局長。
   国防や諜報(ちょうほう)を専門とするジャーナリストとして
   ネットメディアなどに寄稿。
   国防総省ニセ科学プロジェクトに関する著作がある。


長谷川眞理子さんの書評を読んで、
さっそく二つの区図書館に予約を入れてみた。
戦争が研究を加速し、結果が戦争に応用される歴史的事実の詳細が
本書で得られる感触があったからだ。


wikipedia:en:Sharon Weinberger