つましくも満ち足りた暮らしを水俣病が断つ


スクラップブックから
朝日新聞2018年6月7日朝刊
折々のことば 鷲田清一 第1132回



   ボラもなあ、あやつたちもあの魚どもも、
   タコどもももぞか(可愛い)とばい。
                石牟礼道子


   「海の上はほんによかった」と、
   漁師の妻は口を引き攣(つ)らせつつ語る。
   夫と二人で櫓(ろ)を漕(こ)ぎつつ、波をなだめ、
   「ほーい、ほい、きょうもまた来たぞい」と魚を呼ぶ。


   そのつましくも満ち足りた二人ながらの暮らしを
   水俣病が断つ。
   漁もできず舟も売った。
   それが「なんよりきつか」と、
   そして夫のことを「もぞか(いとしい)」と
   口惜(くや)しがる。
   詩人・作家の『苦界浄土』第一部から。


石牟礼道子さんの本を
きちんと読んでおきたいと思った。
事実と向き合うのはときに恐ろしいことだけれど。
自分の弱さに直面することだから。


苦海浄土 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

苦海浄土 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

wikipedia:石牟礼道子