10年の時間のかけら


東京銭湯お遍路第44湯は、
メトロ芝公園駅そば、金杉橋にある港4番「ふれあいの湯」。
小さなビルで一階がフロント、二階が女湯、三階が男湯。
エレベーター完備。
洗い場は10人も座れないほどの、小ぶりな銭湯である。


88湯を巡るお遍路もこれでようやく折り返し地点。
昨年10月から始めて、かれこれ10ヶ月半が過ぎている。



麻布十番温泉と併設されていた「越の湯」が昨年3月末に廃業。
港区にはもう7軒の銭湯しか残っていない。
「ふれあいの湯」はそのうちの1軒である。


洗い場では入れ墨のお兄さんとも
偶然ふれあうことになったが
よくよく背中の図柄を観察すると、似非インド風。
象もサリーの女性もいる。


このお兄さん、どんな商売をしている人なんだろうと
ふと空想をめぐらせてしまう。
少なくともヤクザじゃないだろう。
入れ墨の絵がポップすぎる。



明日は一日夏休みを取ることにしたので
風呂上がりの浜松町界隈にそそられる店はあったが、
お酒を飲まずに帰ることにする。
駅の自動販売機で谷川岳の水を買ってグビグビ飲んで
失った水分を補給しておく。



浜松町には30代から40代にかけて
10年ほど仕事をさせてもらったお得意さんがある。
ずいぶん久しぶりにこの駅から電車に乗ったけれど
構内風景のそこここが身体の記憶に刻まれていた。
変わっているところも、さほど変わっていないところもあって
新旧入り交じっている。


駅の中を歩きながら、
僕自身の10年の時間のかけらに出会った感覚にとらわれた。
今から思えば、いったい僕はそのとき、どこにいたんだろう。