小説の値段


第144回芥川賞
西村賢太苦役列車』(新潮社)全文掲載 1,260円
朝吹真理子『きことわ』(新潮社)全文掲載 1,260円
「文藝春秋」3月特別号(文藝春秋) 860円


第144回直木賞
道尾秀介『月と蟹』(文藝春秋)第一章のみ掲載 1,470円
木内昇漂砂のうたう』(集英社)一章から三章まで掲載 1,785円
オール讀物」3月号(文藝春秋)1,000円


苦役列車

苦役列車


第144回芥川賞直木賞はともに二作当選であった。
久々に小説にスポットライトが当たった感じがする。
本日は内容ではなく小説と価格の関係を考察する。


文藝春秋 2011年 03月号 [雑誌]

文藝春秋 2011年 03月号 [雑誌]


芥川賞「文藝春秋」を一冊買えば、
860円で、2,520円分の受賞作全文を読むことができ
なおかつ他の記事も読める。


オール讀物 2011年 03月号 [雑誌]

オール讀物 2011年 03月号 [雑誌]


直木賞は「オール讀物」一冊買っても、
二作とも冒頭から中途までしか読めず、後はあらすじのみ。
したがって、選評や受賞のことばも合わせて読もうとして
オール讀物」も単行本二冊も買うと、4,255円かかる。
芥川賞860円に対して、直木賞4,255円。


きことわ

きことわ


出版社同士の利権の問題かとも思ったが、
芥川賞はともに新潮社。
直木賞文藝春秋集英社
どの作品が受賞するか事前には分からないし、
両賞のスポンサーが文藝春秋であっても
単行本の出版社は毎回まちまちであるから、利権問題が理由ではない。
とすると、この差はなぜか。
直木賞受賞作を「抄録」としているのは
両作が長編であるためと説明しているが、
四冊の単行本の頁数を比較すれば説得力ある理由ではない。


月と蟹

月と蟹


これだけ本も小説も読まれない時代となっているいま、
今回の受賞4作は読者層を広げる大チャンスである。
となれば、直木賞も全文掲載とし、
日頃この雑誌を買わない人にも小説を読まない人にも
アプローチするのがよかったのではないか。
それで単行本が売れなくなることを心配するなら、
文藝春秋の単行本チーム、集英社
なにがしかの掲載料を支払えばよかろう。


漂砂のうたう

漂砂のうたう


受賞作は両誌で全文掲載するだけでなく、
電子書籍、ケータイ書籍、タブレット書籍などを同時発売して
若い層に小説の面白さを知ってもらう機会にしたらどうか。
せっかく新しいストーリーテラーたちが誕生し、
審査員の先生方がスポットライトを当てても
出版界の価格設定、利権調整、流通方法、出版スピードが
旧態依然であれば好機を逃す。
それはあまりにもったいない。



ちなみに僕は「文藝春秋」オール讀物」の二冊を購入。
計1,860円の支出。
苦役列車』『きことわ』二作は読み終えた。
単行本は買わない。文庫になったら再度買うかどうか考える。
「あとがき」や「解説」が購入を後押しすることもある。
『月と蟹』抄録は読み終えた。
漂砂のうたう』抄録をいま読んでいるところ。
この二作はあらためて単行本を買うかどうかは微妙。
文庫になるまで待つという選択肢を取るかもしれない。