今年も「デジタルノート版・極私的ベスト」を
発表する時期になった。
読了した毎月の書籍リストを見直し、10点満点で採点。
上位17点をファイナリストに選んだ。
後日ファイナリストを見直し、
同一作者で上位に複数入っているものを微調整。
結果として小説5、ノンフィクション・歴史書4(次点1含む)、
マンガ2のバランスになったことは個人的に満足している。
過去3年より小説の割合が増えている。
2011年の新刊(文庫刊行も含む)は11点中5点だった。
日本人の作品のみがベストを占めたのは
この4年間で初めてのことである。
無意識のうちに3.11による日本回帰の影響を
受けていたのかもしれない。
もちろん読書は個人体験の産物そのものであり、
順位をつけて発表するのは年末の座興とお許し願いたい。
本好き、読書好きのひとりとして
一年の収穫を分かち合えればと願う。
●書籍の部
1. 池井戸潤『空飛ぶタイヤ』(上)(下)
(2006/2009文庫版)
- 作者: 池井戸潤
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/09/15
- メディア: 文庫
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- 作者: 池井戸潤
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/09/15
- メディア: 文庫
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小説がこんなに面白いものだったか、
池井戸の作品群は思い出させてくれた。
大企業対中小企業の構図は単純だが、
それだけに物語性が豊かでないと
読者をラストまで引っ張ることはできない。
この作品と『下町ロケット』を読んだのをきっかけに
僕は池井戸の作品を数多く愉しんだ。
- 作者: 岩明均
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/10/22
- メディア: コミック
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メディア芸術祭のマンガ部門大賞作品。
展示を観に出かけてその面白さにグイグイ引き込まれた。
歴史の取材力、細密な画力。
その絶妙なバランスで読者をオリエントの世界に誘う。
一年一冊のペースが岩明のクラフトを支えている。
3. 伊集院静『いねむり先生』(2011)
- 作者: 伊集院静
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/04/05
- メディア: 単行本
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作者と阿佐田哲也(色川武大)との出会い、交流が
物語の軸になる。
博打、酒、旅、そして狂気。
ラスト40頁が秀逸で、
大団円は予想もできないものだった。
伊集院の代表作となる作品が生まれた。
4. 宮崎市定『アジア史概説』
(1947, 1948初版/1973増補単行本/1987文庫)
- 作者: 宮崎市定
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1987/02/10
- メディア: 文庫
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中国国際広告祭に参加するために
東北随一の都市、瀋陽を訪れた。
中国史で何度も首府となった街である。
これまで行った北京、上海、大連ともまったく異なる。
ここで数日過ごすうち、中国をもっと深く知りたくなった。
その道先案内人を宮崎が務めてくれた。
日本屈指の歴史学者であり、海外で教鞭を執った経験も豊富だ。
そこいらの学者とは視野が違う。
この本と『中国史(上・下)』を皮切りに
宮崎山脈を渉猟している。
- 作者: 池井戸潤
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/11/24
- メディア: ハードカバー
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直木賞受賞作。
池井戸作品の受賞検討にはいつも審査員の論議がある。
曰く、人間描写が類型的である。
けれど物語の面白さはどうだろう。
ハッピーエンドに終わることは予想がつくのだが、
それでもラストまで引き込まれていく。
直木賞作家はまずそうあってほしい。
小説を読む面白さを思い出させてほしいのだ。
『空飛ぶタイヤ』『下町ロケット』。
いずれもタイトルが素晴らしいね。
6. (同点) 平井憲夫『原発がどんなものか知ってほしい』(1996)
近所の肉屋のご主人にコピーを実費で分けていただき読んだ。
これまで読んだどの本、資料より原発がどんなものかよく分かる。
平井は原発最前線で指揮を執っていた男だ。
自分が病に冒されていることを知り、
原発の真実を世間に知らせることに人生最期の時間を使った。
原発に賛成するも反対するも、はたまた態度保留にするも、
せめて平井の遺した小冊子を読んでからにするとよい。
大手メディアがこうした文献をろくに紹介しないのが
僕たちが棲む日本の現実である。
タイトル下線部をクリックして全文を読むことができる。
6. (同点)岸浩史『夢を見た』(2011)
- 作者: 岸浩史
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2011/04/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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シュールレアリスムを
マンガで表現するとこうなるという作品だ。
作者は僕の元同僚。
原因不明で手が動かなくなったことをきっかけに
リハビリテーションを兼ねて作品を描きためてきた。
夢が現実か、現実が夢か。
その境界線がぼやけてくるさまが魅力的だ。
8. (同点)澤地久枝『密約 外務省機密漏洩事件』
(1978/1974初出)
- 作者: 澤地久枝
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/08/17
- メディア: 文庫
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白眉は後半。
マスコミによって被害者とされた元外務省職員女性の性癖が
意外な人物のインタビューにより明らかになる。
その事実を知ると事件の真相とされたことが再び揺らぎ出す。
僕たちが知る事実が真実なのか。
断片的な事実をデザインした物語を真実と思わされているのか。
現在の原発にまつわる報道のさなかでも僕は同じ疑問を持つ。
ノンフィクション作家・澤地の粘り強い仕事に敬意を払う。
8. (同点)宮部みゆき『おまえさん』(上)(下)(2011)
- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/09/22
- メディア: 文庫
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- 作者: 宮部みゆき
- 発売日: 2011/09/23
- メディア: 単行本
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文句なしに江戸の世界に遊べる作品。
ミステリーを解いていくプロセスが実に愉しい。
宮部は達者な文体をあやつることを読者に気取られずに
物語に引きずり込んでいく。
僕の考える直木賞作家の仕事である。
文庫を単行本と同時刊行した出版社、筆者の英断に
拍手を送りたい。
そのおかげで新刊を手にすることができた読者が
多くいたことだろう。
8. (同点)伊坂幸太郎『モダンタイムス』(上)(下)
(2008/2011文庫版)
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/10/14
- メディア: 文庫
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- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/10/14
- メディア: 文庫
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現代の巨悪は個人や組織でなくシステムである。
ジョージ・オーウェルが『1984』で提示した人類の課題を
伊坂は「検索」のキーワードで物語った。
主人公の妻・佳代子の設定が秀逸。
夫の浮気を疑い人を雇って夫を拷問にかける妻だが、
その陽気さが物語全体に光を与えているのが面白い。
次点 山本義隆『福島の原発事故をめぐって
ーいくつか学び考えたこと』(2011)
- 作者: 山本義隆
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2011/08/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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16世紀からの科学史の文脈で
現代の「原発ファシズム」まで解き明かした視点が新鮮だった。
山本は物理学史の著書で
原子力が人類に投げかける問題に警鐘を鳴らしていた。
福島原発事故後の政府、大企業、マスコミの情報コントロールを
つぶさに目撃したことがきっかけでこの書の出版となった。
平井の論文と合わせ
原発問題について自分の考え、意見をまとめるのに役立つ。
2011年の日本を象徴する一冊である。
さて、みなさんの極私的ベスト2011は
いかがだったでしょう?
(文中敬称略)