はじめてあなたと関係を持った日、
帰り際になって父は「きみとは結婚できない」と言った。
あなたは驚いて「はあ」と返した。
(『文藝春秋』2013年9月号 p.414)
冒頭からなにかがねじれた文章だった。
藤野可織『爪と目』を読む。
何人かの芥川賞審査員が指摘したように、
日本語で成功例の少ない二人称の小説であるのが原因か。
受賞作そのものより審査員の選評を読むのが普段は好きだが
この作品はいったん読み出すと最後まで読まずにはいられなかった。
主人公であるわたしは三歳の女児であることが分かるが、
三歳児の語り口とは明らかに異なる。
ラストシーンがさぞや怖ろしいのだろうと、
半ば期待し、半ばこわごわ頁を繰ったがやや肩透かしに終わった。
死んだ母親の扱いについても半端な印象が残る。
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とは言え、こうして読ませる作品を
生み出してくれる作家は貴重である。
注目したい。
第149回芥川賞受賞作。