又吉直樹『火花』(「文學界」2015年2月号初出)


一週間分の仕事を終えて
日比谷図書文化館に向かう。
予約していた図書を受け取りに行く。
佐藤優同志社講座「ナショナリズムと国家」課題図書の一冊、
田口富久治『民族の政治学』(1996)だ。
こうした希少本を所蔵している図書館は本当に助かる。


民族の政治学

民族の政治学


窓口で本を借りる手続きを済ませて雑誌の書棚を眺めていると
文學界」2015年2月号がバックナンバーにあった。
お、チャンス!
又吉直樹の小説デビュー中篇『火花』を掲載した号だ。
雑誌は貸出不可だから人知れず棚の奥に残っていた。


文學界 2015年 2月号 (文学界)

文學界 2015年 2月号 (文学界)


この作品が話題を呼び
文學界」が異例の増刷をしてさらに話題になった。
アマゾンの古書価格では1,500+257(送料)=1757円以上の
値段がついている(2015年5月24日現在)。
日比谷図書文化館には座り心地のよいソファーがある。
しかも22時まで開館している。
ゆっくり読み始める。



主人公の漫才師・徳永、彼が師と仰ぐ神谷(かみや)の交友を描く。
又吉は言葉の感覚が鋭敏で
この作品にも随所にその輝きが見られる。
徳永は元サッカー選手の共通点がある又吉の分身か。


神谷は破滅傾向のある天才肌の漫才師。
モデルは誰だろうか。
僕が思い浮かぶのは横山やすしビートたけし立川談志
コント55号」全盛期の萩本欽一
だが、又吉とは世代が違う。
架空の人物、もしくは複数のモデルを合体した
又吉の創作なのか。


1,000万円以上の借金を作った神谷が行方不明、
あるいは自殺するのではとヒヤヒヤしながら頁を繰った。
ラストシーンは僕の予想を裏切る思いがけないものだったが
読後感はよかった。


火花

火花


ちなみに千代田区図書館では
単行本『火花』の予約が138人。
僕の暮らす地元S区図書館では一桁増えて1076人だ。
1076人が規定の2週間ずつ借りたら、
自分の番が回ってくるのは41年後だ。
そのとき僕はこの世にはいまい。
初出誌で読めて、幸せな金曜日の夜だった。


(文中敬称略)