本の連読は予想もしなかった場所に自分を連れていくことがある。
『明日香さんの霊異記』(『少女霊異記』改題)が軽快で面白かったので、
この本を続いて手にした。
高樹のぶ子『私が愛したトマト』(潮出版社、2020)を読む。
タイトルからエッセイ集かなと勝手に想像していたら、
あにはからんや、短編小説集だった。
いずれも「死」を想像させる幻想的な作品が並ぶ。
題名を抜き書きしてみる。
旅する火鉢
崖
夢の罠
散歩
ポンペイアンレッド
私が愛したトマト
蜜蜂とバッタ
蚕起食桑 かいこおきてくわをはむ
タンパク
翔の魔法
かぐや姫
2011年から20年まで「文學界」「新潮」「すばる」「群像」
「Words & Bonds」(Web)に発表してきた10作品に加え、
最後の「かぐや姫」を書き下ろして一冊にまとめた。
困ったことにどの作品もあらすじをうまく説明できない。
まるで夢を追いかけているようで、
現実からどこか知らない場所に連れ去られ、読後に消えてしまう。
それが心地良くて、就寝前に少しずつ読み継いでは、
自分の夢に落ちていた。
小説を読む愉しみは何だろう、とふと考える。
ノンフィクションや学術書に向かうときとはずいぶん心構えが違う。
いや、そもそも構えもなく、
物語に引きずり込まれるのを、むしろ待ち望んでいる気もする。
Eテレ「100分de名著」でお見受けした端正そうな人柄の奥に、
こんな幻想的な世界が広がっているとは想像できなかった。
小説家の持つ言葉の力を感じた。
- 作者:髙樹 のぶ子
- 発売日: 2020/04/06
- メディア: 文庫
- 作者:髙樹 のぶ子
- 発売日: 2020/10/24
- メディア: ムック